2021年3月31日水曜日

中野 雅至 公務員クビ!論 (朝日新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト39日

 春は別れの季節とも言いますが、公務員である我々は転勤商売ですから、この時期のメンバーチェンジは年中行事の一つです。今日もうちの課から、二人有望な若手が巣立っていきました。もしかしたら、毎年J2リーグのフロント陣は、こんな思いをしているのでしょうか?「おいおい、お前がいなくて、来年度どうやって闘うんだよ」と。まあ、明日になれば、大型補強選手が入ってくるので、不安なのは今だけですが、それでも寂しい日はしばらく続きそうです。

 さて、今日お勧めする本は、公務員の実態を世間の色メガネに染まることなく伝えてくれる本です。

 本書の主旨は、公務員の世界はマスコミから伝わることとはかなり違うよってことだと思います。

 私は最初、公務員に対して厳しいことが書いてあるのか、と恐る恐る読みました。しかし、著者が公務員出身ということもあってか、かなり公務員を擁護してくれているように思います。個人的な感想として、公務員の実態を知るにはこの本が最適であろうと思います。公務員バッシングの分析も参考になりました。まあ、どんなバッシングにあっても、あえて自分の仕事とは区別して、誠心誠意頑張っていかなければと思っています。

 子や孫、甥姪の就職先として公務員を勧める前に、是非ご一読ください。

 

2021年3月30日火曜日

小川 洋子 ミーナの行進 (中公文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト40日

 送別会を行うことはそんなに悪いことなんでしょうか?法律にも抵触しない、個人の時間での行動で職員が処罰されることはあってはならないことだと思います。政府はもう少し腹を括って、堂々とことに対処するべきだと思います。自粛警察が正義みたいになるのは危険です。

 さて、今日お勧めする本は、二人の少女と家族の物語です。

 主人公は、朋子という中学1年生の少女です。朋子はある事情から、母方の親戚にあたる芦屋の大富豪の邸宅で1年間過ごすことになります。

 その芦屋の邸宅での生活が、本書の大部分を占めるのですが、登場人物は従姉妹で一つ年下の小学6年生のミーナ。ミーナの祖母でドイツから日本にお嫁に来たローザおばあさん。住み込みのお手伝いで、ローザおばあさんの親友とも言える仲の米田さん。飲料水会社の社長で、ベンツを乗り回すハンサムな伯父さん。口数が少なく、一人喫煙ルームで、ウイスキーとタバコを嗜む伯母さん。それぞれバラエティにとんでいます。

 そしてとっておきなのは、コビトカバのポチ子。ポチ子は伯父さんの10歳の誕生日に、西アフリカのリベリアから買ってきたもので、もう35年もこのお屋敷の庭で暮らしています。ポチ子には大事な役割があり、それは喘息持ちで、体の弱いミーナを小学校まで送り迎えすることです。椅子の足を切った鞍を載せたポチ子に、ミーナが正座して乗り、庭師の小林さんが手綱を握って、毎朝小学校に通うのです。ミーナと小林さんとポチ子の行進は威風堂々としたものだったと描かれています。

 1972年から73年までの1年間の芦屋の邸宅で過ごした夢のようなお金持ちの家族にも、触れてはいけない秘密があります。そんな特殊な家族の幸せに触れるような、あたたかい読後感に浸れます。是非ご一読ください。

2021年3月29日月曜日

レイ ブラッドベリ 華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト41日

 電車通勤も4月で12年目に突入です。その間に変わったことと言えば、漫画雑誌を読んでいる人がほぼ絶滅したこと。10年前は、少数ですがまだいましたが、最近の新潟近辺では絶滅危惧種ですね。活字派はまだ生き残っていますが、ほとんどの乗客はスマホです。それもゲームが多いようです。昔、ゲームは暇つぶしのアイテムだったように思うのですが、今では、アイデンティティとか、人生の一部となっている人がかなりの数いそうです。

 さて、今日お勧めする本は、本を読むことが許されない世界を描いSF小説です。

 本書の最大の魅力は、世界の大半の人が本を読まなくなった世界を予見し、その世界を便利だけど非文明的に皮肉って描いているところです。

 主人公はモンターグ。彼は、その世界で禁じられている本を焼き払う焚書官という仕事をしています。ホースから水ではなく石油を撒き、本に火をつけるという、現実世界の消防士の逆をいく職業です。そんな作業が可能となったのも、建物が燃えない建築物が普及したことによるようです。作中で、登場人物同士で、昔は火を消す消防士がいたという話を伝説のように会話する様子が非常におもしろかったです。

 モンターグの妻ミルドレッドを始め、一般の人達は、四六時中ヘッドホンを付けて、ラジオのようなものを聴いていたり、部屋の四方の壁がテレビのテレビ室でテレビ電話のように話していたりと、情報の量は現代社会よりも多いようですが、どうも内容が薄く、あまり文化的には思えない様に描かれています。そのミルドレッドは睡眠薬の飲み過ぎて、医者を呼ぶような事態も起こります。そんな家庭の事情もあり、モンターグは禁じられているはずの本を手に入れ、本が伝える活字の中の世界にのめり込んでいき、ついには異端者として追われる側になってしまうのです。モンターグの命がけの逃走が始まります。

 本書を読んだのですが、詩的描写や比喩、引用が多く、ちょっと私には難しい小説でした。しかし、60年前に書かれた小説とは思えないほどに現代社会を予見していて面白いんです。

 本を読むことは禁じられ、見つかれば焼かれ、ラジオやテレビで流される大量の情報により人々が考える力を失ってしまった本作の世界。曰く、情報がひっきりなしに入ってくる時代には、その情報にとらわれず、自身で考える閑暇を持つことが大事とのことです。これは、スマホや携帯を所構わずいじってばかりいて本を読まない今の私たちを予見しているのか、さらに行き着く先を示しているのか?今の私たちは既に文明を失いかけているのかもしれないと恐怖を感じます。是非ご一読ください。

 

2021年3月28日日曜日

河野 英太郎 99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ (たった1%のコツシリーズ)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト42日

 今日千秋楽だった大相撲春場所は、東関脇・照ノ富士が4場所ぶり3回目の優勝を果たしました。私はケガなどで休場が続き、序二段に陥落してからここまで再度上り詰めた姿に感動しました。膝のサポーターは痛々しいのですが、相撲の内容は圧倒的な強さを発揮しており、見ていて痛快でした。ケガを機に基本に忠実な相撲を大切にする様になったとの事です。来場所も活躍を期待しています。

 さて、今日お勧めする本は、仕事の効率を高めるちょっとした工夫を指南する本です。

 本書の主旨は、まじめとみじめは1字違い。まじめを優先して仕事の効率を落としてはいけません、ってことだと思います。

 著者は、日本人は仕事上で悪い意味のまじめに囚われ、効率を落としもったいない状態になってしまうそうです。悪い意味のまじめさとは、礼儀正しさと、遠慮だそうです。例えば仕事上のメールで本題に入る前に丁寧な挨拶から入るとか、宛名をさん付けで済ますことなく、相手の役職を正確に記すなど、まじめなゆえに、非効率なビジネスマナーを重視してしまうそうです。

 本書は、報連相から始まり、会議、メール、文書作成など様々なコツを示しています。私が本書で特に学ぶところが多いと思ったのは、情報の伝達と、行動方針の決定に関するところです。具体的には、「報連相のコツ」「会議のコツ」「メールのコツ」「チームワークのコツ」は、実践したら確実にスキルアップにつながる内容が多いです。

 私は既に、若手を育てなければいけない立場にいますが、それでもこういったビジネス本は、自分自身の日々の振り返りと改善に多いに役に立っています。ベテランの方にもお勧めです。是非ご一読ください。

 

2021年3月27日土曜日

ロバート キヨサキ 改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 (単行本)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト43日

 四月から町内会の会計を担当することになりました。会計の仕事は他所でもいろいろやってきましたが、、町内会の会計は予算規模も大きく、責任の重さを感じます。それでも、最近はお金の勉強をしているので、町内会の予算をネット銀行に預けて利息を増やしたいとか、塩漬け状態の繰越予算を資産運用してみたいとか、これまでにない事を考えちゃいます。けど、長老達が聞いたら血圧が上がってヤバいので、口にすることが出来ません。まずは堅実な会計管理に努めて、町内会のお役に立てれば良いなと思っています。

 さて、今日お勧めする本は、お金の知識が人生を変えるということを伝えてくれる本です。

 本書の主旨は、お金持ちになれるかどうかは、自分のためにお金を働かせることができるかどうかで決まる。決して、良い会社に入れるかどうか、頭が良いか悪いか、一流のスポーツ選手になれるかどうかは関係ないという事です。

 本書で出てくる貧乏父さんも、大学を出て立派な仕事を持ち、勤勉に働く優秀な人ですが、お金に関することには時間や頭を使わない人です。金持ち父さんは、高校も出ていませんが、お金についてはしっかりとした教育を受け、自身で様々な事業を展開し、ハワイでも指折りの資産家となり、慈善事業に多額の寄付をし、家族にも十分な資産を残したそうです。

 二人を分ける決定的な違いは何かと言えば、中流以下の人間はお金のために働く、金持ちは自分のためにお金を働かせるということです。そして、このことに限らず、お金についての知識の有無が決定的に人生に影響してくるそうです。

 私がこの本を初めて読んだのは20年も前のことで、実際資産を運用するのは、今みたいに簡単ではなく、実践することはできませんでした。しかし、今はネット環境の進化でびっくりするほど、簡単に投資ができます。これはつまり、金持ち父さんと貧乏父さんの境界がほとんどなくなって、ちょっとやる気を出せば、誰でも金持ち父さんになれる時代であると思います。そして著者は、読者に今すぐ行動するように求めています。読者の皆さんはやはり留まったままなのでしょうか?

 本書は単なるお金儲けの本ではなく、お金を含めた哲学の本として非常に示唆に富む価値の高いものだと思います。是非ご一読ください。

2021年3月26日金曜日

東野 圭吾 さまよう刃 (角川文庫)


 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト44日

 来年の4月から民法改正により、成人年齢が18歳に引き下げられます。では、少年法の取り扱いはどうなるかというと、同じく4月から少年法が改正されて、18歳、19歳は「特定少年」と言う新しいカテゴリーになり、相変わらず少年法の対象となるそうです。しかし、検察に逆送致される案件が、強盗や強制性交、放火など、法定刑の下限が1年以上の罪が追加されており、さらに起訴されると実名報道も可となることから、実質的な厳罰化という改正内容となります。まあ、法改正があってもなくても、少年犯罪が減ってくれると良いのですが。

 さて、今日お勧めする本は、少年法もそうですが、そもそも法律は何の為にあるのかを問いかける、かなり辛い小説です。

 主人公は長峰重樹。一人娘の娘の絵摩は、友達と花火を見に行った帰りに、未成年の不良達にさらわれ、殺されてしまいます。長峰は、謎の密告電話を受け、犯人の少年たちが自分の娘に犯した鬼畜な行いを知り、遭遇した犯人の一人を殺し、もう一人の犯人であるスガノカイジに復讐すべく身を潜めます。

 長峰は、腕っぷしが強かったり、暴力的な人間ではありませんが、被害者やその遺族をないがしろにした裁判制度では、娘の無念は晴らせないと考え、自分が復讐するしかないと考えるに至ったのです。

 いくら一人娘を失った遺族とはいえ、犯人の一人を殺した長峰は、自分自身が殺人事件の容疑者として警察に追われる身となります。その長峰を捜索する警察も、絵摩を襲ったスガノカイジたちのひどい行いを知るだけに、口には出せませんが、長峰に復讐を遂げさせたいと思う捜査員も出てきます。一方、スガノカイジは絵摩の事件の犯人として警察にも追われています。長峰の復讐はどのような結末を迎えるのか?

 少年法では、少年が犯す犯罪は過ちではあるが罪ではないというスタンスのようです。だから罰するのではなく、更生させることを目的としています。じゃあその被害者はどうするの?と問いかけるのが本作のテーマだと思います。私は、本書を通じて読者を正義と悪の迷路に放り込んでしまうことが、作者の意図のように感じて仕方がありません。私ももう少しその迷路をさまよいそうです。是非ご一読ください。

2021年3月25日木曜日

梅田 望夫 ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト45日

 昨年からブログの毎日更新を続けていますが、見に来てくれる人は、1日あたり5人位と、完全にゴーストタウン状態です。それでも続けているのは、完全に自己満足のためなんだと思います。誰でも自分の声を知らない人に届けることのできる時代ですから、そのための技術を磨く価値はかなり高いのではないかと、頑張っていこうと思っていますので、お付き合いよろしくお願いします。

 さて、今日お勧めする本は、15年以上も前、iPhoneもない時代から、今の情報化時代を見透していた本です。

 本書で語られているキモは、よく世の中は情報化の波ですごく変化が起きていると言います。しかし、本当に怖いのは、その裏で、さらに大きな時代の変革が起きていることであり、著者のいう本当の大変化はゆっくり徹底的に起こっていると言うことです。

 著者のいう大変革とは、3つの変革だと思うのですが、一つはインターネットの普及。二つ目は、ものがとことん安くなるチープ革命、もう一つは、オープンソースによる開かれた技術革新です。

 とにかく、古さは感じさせず、逆に今に通じるところに価値を感じます。本書に学ぶべき点は多いと思いますが、若干の違和感を持つところはあるかも知れません。

 ただし、ウェブの進化によるロングテール理論には若干異議あり。梅田さんはウェブがロングテールに商機を作り出したと述べているが、この本が出て15年以上経つ現在は結局アマゾンやグーグルといった恐竜の首がますます高くなる二極化がかなり進行しており、ロングテールとの格差はますます広がっている。しかし、この本で指摘された事項は今読んでも全く色あせていない。素晴らしい本です。

 

2021年3月24日水曜日

福澤 徹三 東京難民(上下巻) (光文社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト46日

 今年は桜が早いようですが、大学受験はおおむね終わり、桜が咲く人散る人、それぞれの一年が始まります。私自身は現役時代は桜が散り、今頃は予備校の費用を少しでも抑えようと、必死に特待生試験を受けていたように覚えています。ただ、その頃は、予備校、大学の学費は出してもらって当たり前と考えていた、親不孝なガキンチョだったと、受験生を持つ親になり日々実感しています。

 さて、今日お勧めする本は、おぼっちゃま大学生がフリーターにまで転落していく小説です。

 主人公は時枝修、漢字で名前を書けば受かるレベルの東京の大学に、北九州の両親の元を離れたいと言う理由で進学し、挙げ句単位を落としまくっています。夏休み明けに大学から呼び出しを受け、そこで学費が未納のため大学を除籍になってしまった事を告げられます。

 大学生でなくなってしまったため、就職しようと考えますが、面接を受けようにもスーツ一着すら持っておらず、就職する実感も湧きません。結局、就職よりお金を稼ぐことを優先して、バイトを探すことにします。そのバイトもうまく行かず、持ち金もどんどん減っていきます。その後、家を追われ、一つ一つ社会とのつながりを失っていきます。

 本書の魅力は、今の自分が当たり前に手にしているものは、一つ選択を誤るとあっという間になくなってしまい、それを取り戻すのは垂直の崖を登るように困難な事であることに気が付かされるところです。主人公修の転落していく様は、本当読んでいて辛くなるばかりの作品です。

 社会をドロップアウトしていく擬似体験を味わう事も、何かの役に立つかもしれません。是非ご一読ください。

 


2021年3月23日火曜日

高野 和明 13階段 (講談社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト47日

 地下鉄サリン事件が起こったのが、26年前の1995年3月20日との事です。昨夜のNHKニュースで、サリン製造を担当した土谷正実元死刑囚と面会した元・警視庁科学捜査官服藤恵三さんの特集を観ました。当時黙秘を貫いていた土谷被告に対し、服藤さんは土谷被告の考案したサリン製造法を土谷被告に図解して話したそうです。そこで、そこまでわかっていることを、黙っていても仕方がないと観念した土谷被告が自供を始め、事件が解決に向けて大きく前進したそうです。

 さて、今日お勧めする本は、死刑制度への疑問をテーマに持つ、ミステリー小説です。

 本書の主旨は、人は人の命を奪うだけの正義など持ち合わせていないって言う事だと思います。

 主な登場人物は、傷害致死で2年の実行判決を受け、刑期を終えたばかりの三上純一。純一を収監していた刑務所の刑務官であった南郷正二、そして、7年前の強盗殺人事件の犯人である死刑囚樹原亮です。

 刑務所を出所したばかりの三上は刑務官の南郷にスカウトされ、死刑囚である樹原の冤罪を証明するための仕事を引き受けます。南郷と三上が弁護士の杉浦から受けた依頼は、樹原の刑が執行される可能性の高い3ヶ月以内に樹原の無実を証明して、再審請求で無罪を勝ち取ることです。報酬は月に100万円、成功報酬は1000万円です。

 しかし、樹原の無実を証明しようにも、肝心の樹原は事件の前後3時間の記憶を逃走中?のバイク事故の後遺症で失っています。南郷と三上は、樹原がおぼろげながら思い出した「階段を登る記憶」を唯一の手がかりとして事件の真相に迫っていきます。

 傷害致死の前科を持つ者、刑務官として刑の執行とは言え、人の命を奪った経験に今もうなされる南郷と死刑囚として刑の執行に怯えて日々を過ごす樹原の三人の視点から語られる物語は死刑制度に懐疑的です。もちろん、犯罪被害者の苦悩についても十分語られつつも、人は人の命を奪うだけの正義を持ち合わせていないと言う前提は決して崩していません。

 物語が進み、謎が謎を呼び、二転三転するストーリーにページを捲る手が止まりません。三上の持つ秘密が明かされるエンディングには、大変驚かされましたが、納得のいくものでした。社会派であり、エンタメでありミステリーであると言う、三拍子揃った傑作です。是非ご一読ください。

2021年3月22日月曜日

田村 明 まちづくりと景観 (岩波新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト48日

 今年の桜は早くなりそうだと、天気予報が告げています。新潟市では3月中に開花すると言う予報もあるようです。せっかく咲いても今年も花見の自粛を呼びかける声も多く、とても残念に思います。満開の桜の下、美味しいお酒を飲める日が早く復活して欲しいものです。

 さて、今日お勧めする本は、都市や住宅地などで好ましい景観をつくり上げていくことを論じた本です。

 本書の主旨は、景観の主体はそこで暮らす市民なので、市民がその気になり行動することが大事って事だと思います。

 正直言って、本書では景観について言葉で論じているのが主ですので、かなりわかりにくい部分があり、とっつきにくい本だと思います。しかし、逆に、ただ見て綺麗な街の写真集などと違い、景観をどのように作り上げていくのかを言語化して伝えているところが本書の魅力です。

 本書のまとめというべき、美しい都市景観づくりの19箇条を書き抜いておきます。そこには、都市景観は自覚ある市民が思いを込めて協働し、長年かかって作り上げていく作品であるとあります。決して官などの主導で簡単に作れるものではないことが大事だと思います。

①自然の地形を尊重し、できるだけ生かしていく。
②特色ある自然の山・川・海・湖などを極力意識的に見せる。
③連続した時間の証明者である歴史的遺産を尊重し、現代に生かす。
④都市を拡散させないで、できるだけコンパクトにして、豊かな田園を保持する。
⑤都市の上空は市民総有の空間としてコントロールする。
⑥都市を一望で捉えられる眺望点を確保し、市民が都市の実感をもてるようにする。
⑦協働作品としての都市景観に、個性ある統一性を求める。
⑧統一を見ださない範囲の多様性を奨励し尊重する。
⑨道路は人間のためにあることを確認し、歩行者空間を拡大する。
⑩都市のシンボルをつくり、市民が一致できる共感点を育てる。
⑪都市に潤いとくつろぎを増やすため、緑と花と水場を増やす。
⑫「まち」に優れたアートやデザインされたストリート・ファニチュアを置く
⑬地域の素材をできるだけ使い、地域の色彩を見つける。
⑭地域にそぐわない不良物を排除し、その侵入を防ぐ。
⑮人々が楽しく安心して働き、憩う場を作り、市民の交流を深める。
⑯都市を舞台にして、伝統の祭り、魅力的な新しいイベントを繰り広げる。
⑰日常生活の中で、市民の愛情ある手がいつも加えられていること。
⑱ヒトやモノへの人々の優しい気持ちを育てる。
⑲子供のときから老人まで「まち」への関心を深める教育・学習を行う。
⑳番目は各地域で追加してほしいとのことです。

是非ご一読ください。

 

2021年3月21日日曜日

山田 宗樹 ギフテッド (幻冬舎文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト49日

 残念ながら、東京五輪・パラリンピックで海外からの一般観客受け入れを断念する事が決まったようです。中止よりはマシと思い、新たな思いで大会開催に向けた準備が進められていく事になります。細かいことを言えば、一般客はダメでも、選手や関係者の多くが来日するわけですから、あたたかく迎える日本の姿勢は崩さないようにしていきたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、特別な才能に対して社会がどう向き合うのか示した、SF小説です。

 本書の設定で大事なことは、未知の臓器を持つ子供達の存在が確認されて、その臓器を持つ子供達がギフテッドと名付けられ、人類の飛躍的進化を示す存在としてもてはやされたこと。そして、その熱が冷め、その反動としてギフテッド達はバッシングを受ける世の中になっていると言う状況です。

 登場人物は、超常現象を起こすことのできる「奇跡のギフテッド」と呼ばれつつも、ギフテッドと普通の人類との共存を望む達川颯斗。子供時代、ギフテッドであるが故に、これまで過ごした土地でトラブルとなり、ギフテッドだけが通う中高一貫校に小学校から編入する友達。ギフテッドではない颯斗の幼馴染である佐藤あずさ。

 あらすじとしては、ギフテッドは何かのブームのように、持ち上げられた後、一般の人類との優位的な能力差が発見されず。逆に差別を受けるようになっていきます。そこで、颯斗の仲間であったギフテッドの「村やん」こと村山直美が、アイデンディティを失い超能力開発の修行をするギフテッド達と共に、大事件を起こして失踪します。ギフテッドと人類の対立がどんどん深刻化していくなか、同じように超能力に覚醒した颯斗とその幼馴染で一般人の佐藤あずさが、一般人代表として事件に立ち向かいます。非ギフテッドである人類は、ギフテッドを受け入れられるのか?どうしたらギフテッドと非ギフテッドは共存できるのか?物語は問いかけます。

 本書最大の魅力は、大多数の一般人がギフテッドと言う異能の存在にどう向き合うか?と言う、社会的な圧力や差別、多数派の暴力的な圧力です。そして、ギフテッド達が超人的な能力を持ちながら被差別者として不当な差別とどう向き合うか?このようにサイキックエンターテイメントなSFを通して描かれる、現実世界に存在する差別に対する問題提起がエグいと感じました。是非ご一読ください。

 

2021年3月20日土曜日

伊坂 幸太郎 重力ピエロ (新潮文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト50日

 今日の地震も東北大震災の余震だそうです。我が家のたつ土地は震度3との事でしたが、遠方から伝わってきた振動は長く、ゆらゆらと周期の長いものに感じられました。まるで、急に地面が溶けて無くなり、水の上に浮かんでいるかのように続く揺れは、何度経験しても慣れる事はなく気分が悪いものです。 10年経っても被災地では気の休まる事はないのかと、本当に大変なことだと感じました。

 さて、今日お勧めする本は、家族の絆の強さを描いた小説です。

 主人公はDNAの分析などを行う会社に勤める泉水(いずみ)。その家族として、ピカソのように美術に非凡な才能を持って生まれ、落書きを消す仕事をしている、2歳下の弟の春、癌を患い闘病中の父親、そして既に亡くなっているのですが、回想の中で登場する元モデルだった美人の母親による家族の物語が語られます。

 一見平和そうな家族構成ですが、弟の春は、母親が被害に遭ったレイプの結果できた子供であるという、重い過去を持った家族です。しかし、母親が妊娠を告げたときに、父親は「よし、産もう」とほとんど悩む事なく、判断したのです。この父親の突き抜けた愛情と思いやりが、四人を最強の家族として結びつけているのです。春の出生の秘密を知った泉水が、春のことをどう思っているのかと質問したところ「春は俺の子だよ。俺の次男でおまえの弟だ。俺たちは最強の家族だ」と全くの自然体で、主人公を救う言葉を返してくれます。

 やがて、泉水や春の周りで、謎の言葉のグラフィティアートと関連した連続放火事件が起こり、泉水と春はその謎解きに挑み犯人を捕まえようとします。しかし、その事件には思いもよらぬ真相が隠されていたのです。

 本書の魅力は、血のつながりや遺伝なんてものともせず、固い絆で家族を結ぶ父親の存在だと思います。その父親は、作中でこう表現されています。「他人に能力をひけらかさない限りは、穏やかさだけが取り柄の、無能な人間に見えてしまう種類の人間だった。」私はこの父親が大好きで何度も本書を読んでしまいます。是非ご一読ください。

2021年3月19日金曜日

古賀 茂明 日本中枢の崩壊 (講談社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト51日

 東北新社の接待問題も、官僚各位の辞任等を持って幕引きが図られようとしています。私としては、東北新社のBS許可に関する報道を見るに、かなりやり過ぎのように感じます。公務員として、キチンとして欲しいと思いました。

 さて、今日お勧めする本は、元現役官僚による官僚システムの凋落と弊害を告発する本です。

 著者は、本書の執筆当時、現役官僚でありながら、この官僚主導の政治のあり方に問題提起を行なっています。その中でも、東北第一原発の事故は、原子力安全・保安院と電力会社との癒着が招いた最悪の結果と喝破しています。

 その他にも、官僚システムの弊害について、数多くの例を挙げて説明されており、官僚についてあまりピンとこない方でも、大体のことは伝わる内容だと思います。

 個人的には、官僚のほとんどの方は、日本のために骨身を削って勤めてくれている事は間違い無いと、自信を持って言えますが、本書にあるように、これからの日本にとって、改革が必要な部署であることも事実だと思います。是非ご一読ください。

 

2021年3月18日木曜日

貴志 祐介 黒い家 (角川ホラー文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト52日

今日は友達の送別会でした。彼の行先に幸あらんことを祈っています。

今日お勧めする本は、ホラー小説の決定版です。

とにかく、生身の体が一番怖いと言う事に気付かされました。

2021年3月17日水曜日

幕内 秀夫 子どもが野菜嫌いで何が悪い!

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト53日

 今日は有志の送別会でした。時代が時代なら普通に開催されるのですが、コロナ禍のため、アングラで開催しました。しかし、今回のコロナ禍で気炎を上げなきゃならないのは、ロックをやっている人だと思うのですが、なんなんでしょう、この猫のような従順さは。お前らほんとにロックなのか?まあ、なんちゃってロックも悪くないと思いますが。

 さて、今日お勧めする本は、子供の食事悩むお母さん達に栄養学とはまた違った次元で助け舟を出してくれる本です。

 本書の主旨は、子供が野菜嫌いで食べなくてもなんの不都合もありませんよって事だと思います。

 そもそも、核家族化が今のように進んでいなかった時代では、子供のための食事ではなく、大人のおかずで子供もご飯を食べていた。子供の食事を考え、そこに多くの栄養を取らせようと考えれば、大変になるのは当たり前。大人が食べるご飯中心の和食を食べさせていれば、まずは大丈夫ですよとの事です。その際嫌いな野菜を無理強いしないことも重要です。

 子供がピーマンなど緑の野菜を嫌うのは、本能的に食べられるものと食べられないものを色で仕分けていることもあるようです。我々が食べる野菜や果実は、熟れて食べ頃になると緑から赤や黄色などの色に変わります。それで人間は本能的に緑の野菜を遠ざける傾向にあるようです。これは、匂いでも青臭い野菜が嫌われるのと同じ理屈です。

 食の流行り廃りの情報に踊らされないように本書で学ぶのはすごく有益な事だと思います。是非ご一読ください。

2021年3月16日火曜日

内田樹 日本辺境論(新潮新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト54日

 コロナの新規感染者数が下げ止まったと、最近はしつこいくらいに報道されている。尾身新型コロナウイルス感染症対策分科会長は、国民の自粛疲れやクラスターの多様化が感染者数減少を妨げているように発言していましたが、どこまで行っても国民の責任を問う姿勢はいかがなものかと思います。今年も送別会など節目の行事はほとんど中止されています。しかし、中止するかどうか決める際にも、リスクの検討ではなく、なぜならそう言う空気だからという、言い訳がほとんどを占めているようです。

 さて、今日お勧めする本は、日本人らしさを先人達が繰り返し説明してきた書籍を元に大ざっぱに説明する本です。

 本書で語られる、日本人らしさとは「和を以て貴しと為す」という言葉が示すように、真理の探究ではなく、自身の幸福の追求ではなく、常に他者との関係性により担保されているため、常に他者との位置付けにしか存在し得ない物です。そのため、常に他との比較や順位付でしか自分らしさやアイデンティティを持ち続ける事ができないそうなのです。ですから、日本人は常に他国の動向を気にしてキョロキョロしているそうです。

 この事は、意思決定のプロセスを曖昧にしてしまいがちな性格に繋がり、よく聞く、「あの空気では逆らえないよ」とか「そうなっていたので
仕方がなかった」など、他律的な意思決定をむしろ好んで志向するような国民性があるようです。

 昔は中国、今ではヨーロッパやアメリカを文化の中心として崇め、その中心からの距離でしか自分を規定できない日本人。若干難しく読み辛かったのですが、得るものは多いです。その中の一つ。「学ぶ力」とは、「これを学ぶとこれを得る」と言う報酬の約束に形作られるものではなく、具体的な効果や理屈が無くても、自分にとって死活的に重要であると確信できる力であり、日本人が民族的に持つ力との事。日本人は盲目的に学ぶと言う、学ぶことについて世界でもっとも効率のいい装置を開発した国民だそうです。逆に、「先生それを勉強して何の役に立つのですか?」という問いは、学ぶ側として残念な状態を示す言葉であるとのことでした。是非ご一読ください。

 

2021年3月15日月曜日

茂木 健一郎 思考の補助線 (ちくま新書)


 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト55日

 住宅ローンの借り換えが、本日ようやく完了しました。思い出せば検討を始めたのが昨年12月、仮審査を年末に申し込み、正式審査に通り契約を終え、3ヶ月かかってようやく終了です。費用も40万円強かかっていますが、金利の差で80万円ほど得をするので、約40万円の節約になりました。金利差の他にも、返済期間が短くなったり、ネット銀行の得点が増えたり、いい事づくめの借り換えだったので、やりがいのある作業でした。最近は、面倒くさがっていたら、得られない事が沢山ある事に気付かされる事が本当に多いです。

 さて、今日お勧めする本は、知のデフレ現象が進む日本に、喝を入れる著者のエッセイです。

 本書で語る著者は、テレビで見かける著者とは違い、読者に怒りのこもった毒を吐き続けます。それは、「知のデフレ」が起こっていることの不甲斐なさ、その原因と思われる、「本当のこと」を求め続け、探求に全力を尽すべきところを、そうしていない学問の凋落に対してです。

 本書の魅力はとにかく、著者の熱量、熱さが半端ではないところだと思います。目一杯、知のデフレが進む日本で一矢報いようと「ふざけるんじゃねえ」と気炎をあげているのです。世界の全てを引き受けようとの気概を持ち、学問に立ち向かう、学ぶことを勧めています。

 以下、本文を交えながら、本書での議論の一例を提示します。「差別」や「平等」という言い方は、一種の序列構造を前提にしています。「差異は上下という関係に写像される」という世界観の下では、できるだけその差異を隠蔽して、均質なものとみなそうとする動機付けが生まれます。いわゆるポリティカルコレクト(政治的な正しさ)の中では、「背が低い」という言葉は差別的なので「垂直方向に挑戦されている」と言い直すとのことです。一見相手に気遣いしているように聞こえますが、「みんな違ってみんな良い」と言う多様な価値観を賛美するのではなく、背が高い方が良いと言う単一の価値観を信じ、隠蔽しようとしている行為でしかありません。このように、様々なテーマを論じ、読者に考える機会を与える本なのです。

 私が最近読んだ中では、久々の硬派な一撃でした。難しい表現も多く、読みづらいのですが、読み応えは大いにあります。是非ご一読ください。

2021年3月14日日曜日

カーマイン・ガロ  スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト56日

 町内会のお手伝いに、よく集まったりするのですが、かなりの頻度で困った議論が始まります。建設的な結論に至る議論なら良いのですが、そうなることはほぼないです。そんな時の良くない発言を3タイプに分類して見ました。まず、とにかく自分の話を聞いてほしい、かまってちゃん発言。お前は分かっていないと、やたらマウント取りたがる、俺が上位発言。無意味に和ませようとして、茶化したり話を逸らす、的外れムードメイカー発言。共通点は、話をさえぎりがちなところと、声が大きいところです。まあ、なんだかんだ言っても、町内会のお仕事に参加してくれているだけでもありがたいことなんですけどね。

 さて、今日お勧めする本は、伝説のプレゼンテイター、スティーブ・ジョブズのプレゼンについて解説してくれる本です。

 本書の主旨は、アップルという企業にジョブズがどんなストーリーを作り、どう発信したか分析して、その手法を読者が役立てるように伝えることです。

 ジョブズのプレゼンを一言で表せば、ストーリーを持った演劇のようだそうです。そんなプレゼンを作り上げるポイントは三つ。まず、アナログな紙と鉛筆でストーリーを練る事。次に、聞き手がなぜ話を聞く必要があるのかという疑問に答えている事。最後に、正義の味方と敵を登場させて、旧来の敵を倒す変革を受け入れるムードを作る事。だそうです。

 確かに、私が聴いてつまらないプレゼンは、聴くメリットが感じられないプレゼンです。そのメリットをしっかり考え抜き伝えてもらえたら、それだけでそのプレゼンは成功しているように思います。

 この本で、ジョブズのプレゼンを文で読むだけでも、アップルの製品がほしくなりました。このことほど、スティーブジョブスのプレゼンがいかに優れているかを力強く証明するものはないと思うのです。プレゼンの教科書としてためになったところは、聴衆に訴えかける言葉はシンプル、具体的、感情的という三つのタイプで構成されているということ。そしてもう一つは、いかに練習に時間をかけるかということでした。

 プレゼンに限らず、言葉で物事を伝えたい人には、とても参考になる本だと思います。是非ご一読ください。



2021年3月13日土曜日

鬼塚 忠 花戦さ (角川文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト57日

今日は雪で折れた庭木の処理に、軽トラに枝木を積んで新発田市のゴミ処理センターに行ってきました。昨年も大掃除で出たゴミを出しに何度も通った場所ですが、今年はうちと同じように、枝木を積んだ軽トラが何台も受付に並んでいます。職員の方曰く、「今年は処分量が多く、ゴミを出すのをしばらく待ってください」と、言われるほどゴミが多いようです。大雪の影響がここにも出ているようです。

 さて、今日お勧めする本は、華道家元の池坊専好が華道に懸命にはげむ様子や、その立てた花を見事に活字で表現した小説です。

 主人公は初代池坊専好。六角堂と呼ばれる寺の住職で、代々花の名手として知られた家の当主です。池坊専好は庶民から専好さんと呼ばれ親しまれています。彼の立てる花は、人々にとって芸術であり娯楽でした。

 専好さんに対するものとして描かれるのは豊臣秀吉です。秀吉は明智光秀を討ち、主君の敵討ちを行い、信長に変わる天下人として大きな権力を握ります。昔百姓から成り上がってきたことを忘れ、次第に自分を認めないものの命を奪うほどの増長ぶりとなってしまいます。

 本書では、専好さんの美の探究におけるライバルであり、親友として千利休が登場します。専好さんと利休さんは同じ美の道を極めようとするライバルではありますが、専好さんにとって自分の美意識を唯一の理解者であり、無二の存在です。

 その利休が、秀吉と袂を分ち遂には切腹を命じられてしまいます。専好さんは、なんとか利休の仇を打ちたいと、前田利家に頼み、秀吉に自分の立てた生花を見てもらえれように、依頼します。

 天下人秀吉の機嫌を損なってしまっては、生命も守ることは叶いません。そんな秀吉に専好さんは命がけで花を見せ、秀吉の改心を迫ります。

 華道の世界を小説で表すという、他には見られないテーマを実に見事に描き切った名作です。是非ご一読ください。

 

2021年3月12日金曜日

米山 公啓 「健康」という病 (集英社新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト58日

 今日は実の父親の命日です。10年以上経った今でも、あの日の出来事は鮮明に思い出せます。ちょうど親父が死ぬ9日前に祖母が亡くなり、葬儀やら色々あり、しょっちゅう話が出来たのは良かったのですが、まさかの不幸2連チャンでした。その祖母の葬儀で、親父が背中が痛いとしきりに痛がっていました。一週間もたたず親父はかかりつけの医者に背中の痛みを相談したのですが、原因は特定できませんでした。しかし、その2日後に腹部大動脈瘤破裂で呆気なくこの世を去りました。高血圧で糖尿病の罹患歴を持つ父の背中の痛みは、大動脈瘤に特有の症状でしたが、かかりつけのお医者さんには見抜けなかったのです。親父が最後の診察で預けられた、ポータブル血圧計も不要となり、母が返しに行きました。その時の母の悔しさは想像を絶するものだったと思います。その後、私たちは医者を訴えることはしませんでしたが、多分この先、信じることもないでしょう。

 さて、今日お勧めする本は、この世に絶対的な健康など無いと、必要以上に健康を求める現代の風潮に苦言する一冊です。

 本書の主旨は、健康という状態を区別する言葉は無い。しかし、今は医者が勝手に作った基準値に当てはまるかどうかで、健康不健康の区別をつけている。それっておかしくないですか?っと問いかけていることだと思います。

 例えば、高脂血症の基準が厳しくなってすぐ、高脂血症の薬が認可され、元の基準であれば薬を飲まなくても良い人たちが、基準が厳しくなったことで、お医者さんから薬を処方されるわけですから、製薬会社にとって健康か不健康かの基準は利益に直結する大事な指標となります。

 しかし、健康か不健康かの基準となる数値は、絶対的なものではなく、あくまでも相対的な目安でしかありません。それも、ガンマGTPのように病気になるには他の要因が大きく、それだけで病気と認定されない数値も多々あります。

 結局我々は、ありもしない絶対的な健康を求め、不健康と判定される基準を作り上げたあげく、その基準に振り回される生活にみずから追い込まれてきたようです。

 健康とは何か考えるきっかけに良い本だと思いますので、是非ご一読ください。

 

2021年3月11日木曜日

石井 光太 遺体: 震災、津波の果てに (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト59日

 今日は東日本大震災から10年目の日です。今日も14時46分に黙祷のアナウンスが流れました。10年前、私は職場で地震を経験していて、経験したことのない長い揺れにびっくりしたことを覚えています。震度4以上の時に行うパトロールに出かけ、戻った時にあのショッキングな津波の映像をテレビで見ることになります。被害のなかった私ですらはっきり覚えているのですから、被災者の方々は忘れたくても忘れられない数日間だったのではないかと思います。残された方々の辛い気持ちが少しでも癒えてほしいと、祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、あの災害時に、亡くなられた方のご遺体の弔いに関わった方々の経験を記すルポルタージュです。

 本書では、遺体安置所で働くボランティアや、遺体の検死を行う医師、遺体の歯形を記録する歯科医師、遺体の運搬を受け持った市役所職員、供養を引き受けたお坊さんなど、多くの方が描かれています。彼らは、一つ間違えば自分も遺体としてそこに並んでいたと感じつつ、遺族の悲しみに押し潰されそうになりながら、懸命に自体収集のため目の前の業務に集中して取り組みます。それでもひきも切らず運ばれてくる遺体。中には当然、自分の友人や親戚もあり、悲しみに動けなくなりそうになっても、それでも仕事を続けます。

 中でも、印象的だったのは、葬儀場で務めた経験から、遺体安置所の仕切りを志願し、遺体を家族の元へ返したいという一心で働いた千葉淳さんの行動が胸を打ちます。千葉さんは、これまでの職業経験から遺体の取り扱いに詳しいことはもちろんですが、遺族の気持ちを十二分に察して、遺族の側にっ立った労りの言葉をかけていきます。この一言一言が読者の心も癒してくれるようでした。

 本書の登場人物の一人は、辛くてもあの災害を心に刻み、忘れないことが、生き残った我々にとって大切になってくると言います。1万人だとか2万人だとか、犠牲者を数字でとらえた途端、命の重さが何か別のもに置き換わってしまった私に、改めて一つ一つの命の重さを感じさせてくれた素晴らしい本だと思いました。また、改めて、弔うということの意味をを深く考える事が出来ました。これからも、具体的な行動を通じ、どんな形であれ、あの災害に向き合っていこうと思います。

 

2021年3月10日水曜日

北村 森 途中下車 ---パニック障害になって。息子との旅と、再生の記録

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト60日

 最近、らくらくトレイン村上に乗ろうとすると、やたらと電光掲示板の写真を撮っている人たちを見かけます。気になって調べてみると、らくらくトレイン村上は、3月13日のダイヤ改正で姿を消す電車だそうです。今日を含めてあと3回しか乗るチャンスはありません。昔何度か酔い潰れて寝てしまって私を、新発田を通り過ぎ、そおっと村上まで連れて行ってくれたこの電車とも、これでお別れです。

 さて、今日お勧めする本は、エリートサラリーマンがパニック障害に罹り会社を退職し、息子との二人旅によるリハビリで回復していくまでを記録したドキュメントです。

 本書の著者は、東京で家庭をかえりみず、人気雑誌の編集長として働いていましたが、働き盛りの40歳の時に体の異常を感じます。それは、これまで当たり前に乗っていた地下鉄などの乗り物に乗れなくなったのです。潜在的な罹患者を含めると百人に一人は罹患者となるような病です。著者はパニック障害の中で仕事を続ける事は出来ないと判断し、会社を退職します。

 本書の魅力は、パニック障害を患った著者が、症状が悪化していく様子、少しずつ回復していく様子を、事細かに赤裸々に記していることから、症状の出る描写に切迫感があり、読者が追体験することができる事です。その追体験を通じてあまり馴染みのない、パニック障害という病を自分ごととして身近に感じる事ができる事だと思います。

 本書を読んで私は、これまで遠かった保育園児の息子と著者の距離感が近くなっていく過程に感動しました。他にも、退職するという人生の岐路で寿司屋の親方からもらった言葉を二人で振り返る場面が良かったです。以下引用。「霜が降りた景色を見て、これからのつらい季節を気に病むのか、それとも天からの贈り物と感じて美しい景色を愛でるのか、これはまあ、人次第ということだ」

2021年3月9日火曜日

伊坂 幸太郎 仙台ぐらし (集英社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト61日

 この時期になるとどうしてもテレビをはじめとして、あらゆるメディアが大震災を振り返ります。2011年の災害から早くも10年が経とうとしています。あの大震災で得た教訓として、私の仕事に関連した事で言えば、土木施設は住民を全ての災害から絶対安全に守る施設ではないと、キチンと説明できるようになった事だと思っています。想定している災害からはちゃんと守ることはできますが、それを超えたら、残念ながら守ることはできません。この当たり前の話を受け入れてもらえるようになったと感じています。

 さて、今日お勧めする本は、仙台在住の人気作家のエッセイです。

 著者は、エッセイは苦手と自覚していて、作り話のようなエッセイで良ければと引き受けたものの、結局、作り話でエッセイを綴るのは難しく、結局実話ベースの通常のエッセイを書くことになり、苦労したそうです。

 著者は、半年に1話、5年10話を終え、単行本製作の過程で、あの東北大震災に見舞われます。その後、被災後のエッセイや、書き下ろしの小説を加えて、なんとか発行に漕ぎ着けたのが本書になります。

 本書を災害関連本として位置付けて欲しくないと、著者は考えていますが、私の中では圧倒的に震災直後の状況を伝える素晴らしい作品だと思います。それは、被災者の無力感や、戸惑いをこれほどストレートに伝えてくれるメディアは多分ないと思うからです。写真や動画は、外見を伝える情報量は多いと思うのですが、文章は書いた人の心情がストレートに伝わってくるので、大震災被災者の一人である著者の無力感や、戸惑いを追体験できるのは、とても大切なことだと思います。

 本書の中で、一番印象的なのは、くどいほど語られる著者の小心者ぶりが、著者の作品の魅力になっていることに気づけたことです。また、完全復活できる前に書かれたであろう、書き下ろしの短篇小説にも、伊坂節が感じられてよかったです。是非ご一読ください。

 

2021年3月8日月曜日

夏井睦 傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト62日

 先月の話ですが、娘の手荒れがひどいため、皮膚科で診てもらいました。特別な検査もなく、コロナ禍でいろんなところに置いてある、手の消毒による手荒れとの診断でした。。皮膚が丈夫な人はあまり気にならないのかもしれませんが、感染予防の消毒は、皮膚にはかなりダメージになるようです。私も手荒れがひどいので、極力消毒しないように気を付けていたので、今年はいつもより荒れるということはありませんでした。

 さて、今日お勧めする本は、今はスタンダードになった治療法である、ケガの湿潤療法を紹介するために書かれた本です。

 私が初めて本書を読んだ10年前はまだまだ、本書に書かれた治療法は一般的ではなく、治療に用いるプラスモイストなどはあまり流通していなかったように覚えていますが、現在は本書の治療方法もすっかり市民権を得ているようです。

 本書の主旨は、傷や火傷など皮膚の疾患を治療するには、皮膚本来の自然治癒力を活用することが一番良いって事だと思います。

 そのために必要な措置は、患部を乾燥させず湿潤状態に保つこと、消毒をしないことの2点が重要です。

 そもそも、傷の治療については、専門とする診療科が存在しないそうです。そのため、著者がこの治療法を発見するまでは確たる治療法が確立していなかったそうです。

 私自身、子供の怪我に、すぐオキシドールで消毒をしていましたが、それは却って回復の妨げになる行為だったようです。そもそも、よほどの怪我でない限り、傷口からバイ菌が入って悪さをする前に、皮膚に住んでいる常在菌が退治してくれるようなので、消毒は不要だそうです。

 治療法の紹介や解説も面白いのですが、本書はとりわけ、著者が湿潤療法を発見していく過程を振り返る章が非常に面白いと思いました。まさに医学上の発見に立ち会う気分を味わえました。

 今ではすっかり市民権を得た治療法ですが、開発当時のロックな感じを味わえる本です。是非ご一読ください。

 

2021年3月7日日曜日

内田 樹 街場のメディア論 (光文社新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト63日

 今日は、万代島美術館で開催されている『岡本太郎展』を観に行って来ました。岡本太郎といえば太陽の塔が代名詞ですが、展示内容も大半が大阪万博に関するものでした。さすが、芸術家だけあって、生命の根源を言語に頼らず伝えているようでした。岡本太郎氏については、以前紹介した『自分の中に毒を持て』が素晴らしいのですが、その本で語られた世界が今回の展示から感じられて非常に満足でした。ただ、岡本太郎氏に打ちのめされた1日でした。

 さて、今日お勧めする本は、新聞やテレビといった既成メディアの凋落はどうして起こるのか、その根本的な原因を明らかにする本です。

 本書は、メディアへの就職を希望する女子大生への講義をまとめ、加筆修正されて発行された本だそうです。

 これまでも「テレビの大罪」など、多くのメディア批判に関する本を紹介して来ましたが、本書はさらに踏み込んで、マスコミ凋落の原因を明らかにしています。

 本書の主旨は、「メディアの不調はそのまま我々は受信側の知性の不調による」ものだそうです。現代のメディアを批判するのは、他人事ではありません。常套句のように定型化したメディア批判から離れる必要があると説いています。

 まず、現代のメディアの凋落は、ジャーナリストの知的な劣化がインターネットの出現により顕在化してしまったことによるものだそうです。なぜそう言えるかというと、メディアの価値は、「そこにアクセスすることによって、世界の成り立ちについての理解が深まるかどうか」で決定されるからだそうです。

 この他にも、マスメディアが没落して行ったら次はどんなメディアモデルが登場するのか、コピーライトについてなど、興味深いテーマが目白押しです。

 メディアに関するこれからの展望も見えてくると思います。是非、ご一読ください。

2021年3月6日土曜日

カミュ ペスト (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト64日

 NHKで、WHOのテドロス事務局長が、新型コロナウイルスのワクチンの知的財産権の保護を一時的に停止すべきと主張したとのニュースを見て、自分の新型コロナに対する認識を改める必要を感じました。これまで新型コロナはインフルエンザみたいなヤバい風邪くらいに感じていました。しかし、これは日本が高度な医療技術と行き届いた医療インフラ、キチンと自粛に応じる従順な国民性に恵まれて来た結果によるイメージでした。実際日本だけで見れば、一人当たり感染者数や死者数がかなり抑え込まれており、個人的には緊急事態宣言なんて全く意味不明に感じています。しかし、世界に目を向けるとこの病気で亡くなる人は後を立たず、すでに死者数は250万人を超えています。早く終息することを祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、十万人を超える市民を抱える都市に感染症が発生し、その災禍との戦いを強いられる市民を描く小説です。

 舞台はフランス領アルジェリアの都市オラン。主人公は医師リウー。主な登場人物に、旅行者でありながらペストで苦しむ市民のためボランティアで働くタルー、小説家を夢見る市役所の臨時職員のおじさんグラン、犯罪者でペストのどさくさに紛れ逃亡中のコタール、仕事で滞在中の新聞記者でパリの恋人の元に帰りたい一心のランベール。

 物語は4月に鼠の大量死が発生し、謎の熱病が流行り死者が増えたことでペストの可能性にリウーが気が付きます。その後も見えない敵に襲われるように死者が増え、ペストの感染拡大防止のためオランのロックダウンが決定されます。

 登場人物は否応なくこの災厄により、これまでの日常を失い、患者の看病などペストとの戦いに巻き込まれて行きます。そして、ペストとの戦いの疲れと、ロックダウンの閉塞感により、リウーを含め登場人物たちは限界まで疲弊して行きます。ようやく、ペストに対する血清の製作に成功するかというところで、突然状況は改善して、ペストは沈静化して行きます。

 新型コロナの感染拡大による今の状況が、本書で語られる状況に似ていると話題で、本書もかなりブームになっているようです。確かに、当初ペストの脅威に向き合えず、手を打とうとしない県知事の姿や、ロックダウンにより観光をはじめとする経済がダメージを受けていくところなどは、現在と酷似しています。
 
 しかし、本書のテーマは、オランという一都市がペストの災難に遭うという不条理に、巻き込まれる様々な人物を描くことであり、そこから逃げ出そうとするランベールや、そこに居心地良く暮らすコタールなどが存在しているのです。そこは決して今の新型コロナの状況とは違う話なので、なんの参考にもなりません。

 しかし、この災禍に立ち向かう人々の姿には今に通じる人間の強さや崇高さを感じました。若干言葉遣いが古臭く読みづらい本だと感じましたが、是非ご一読ください。

 

2021年3月5日金曜日

辻井啓作 なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト65日

 新発田市にある京セラの工場が来年3月で閉鎖されるそうです。これまで、新発田に雇用と税金を提供してくださった事に大変感謝しています。残念ながら、工場と運命を共にする方々の苦難が少しでも軽いものであるよう祈っています。あらためて、日本の国際競争力が自分の身の回りに直結していることに驚きました。国際間における経済戦争は他人事ではありません。

 さて、今日お勧めする本は、商店街の活動がほとんどうまく行っていない理由を解き明かしてくれる本です。

 本書の主旨は、商店街の最大の社会的役割は本業の商売でいかに消費者に支持されるサービスを展開するかという事。決して、まちづくりや地域おこしでは無いという事です。

 まちづくりや地域おこしは、それが成功したら一番のリターンを得る地主や市役所がリスクを取るべきだとの事です。

 この意見を煙たく感じる方も多いと思いますが、私は至極もっともな事だと思います。宝塚や田園調布を開発し発展させたのは、デベロッパーであり地主であった企業ですし。それぞれ、自分の資産を最大化させるための仕事です。

 こう言った企業とほとんどボランティアで成り立つ商店街組合などを一緒くたにはできないとあらためて思いました。確かに、地域おこしを行えるパワーなどにかなりの差が出来そうです

2021年3月4日木曜日

D・カーネギー 人を動かす 文庫版


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編300日目

 いよいよ、ブックカバーチャレンジ番外編も300日に到達しました。最近は、この記事を書くことで、一杯一杯になってしまい、新しい本を読む暇がありません。しかし、残りあと65日続ければ、1年となりますので、もう2ヶ月なんとか続けて行きたいと思っています。最初は100日くらい続けて終わろうと思っていたのですが、紹介したい本を絞り込む事が出来ず、ズルズルと続けて来ました。これから先は、とっておきのお勧めの本ばかりになって来ますので、是非最後までお付き合いいただきたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、タイトルとは逆に、人を思い通りに動かすなんて無理ですよ!って言う本です。

 本書は、1936年に初版が発行されて以来、度重なる改訂を加え、著者の死後26年後に改訂された1981年版を翻訳したものです。まさに人間関係を語る古典として、多くの人に知られる本です。

 本書の主旨は、人を思い通りに動かす事はできないよって言うことだと思います。本書の冒頭を飾るのは、多くの人を殺した凶悪な殺人犯も死刑に処されるときに、「自分を守ってきただけなのに、こんな目に遭うなんて酷いと」考えていたという事例です。

 凶悪犯ではない我々は尚のこと、自分は正しいと信じて生きています。自分が間違っていると考えて生きている人はいません。ですから、自分の考えを押し付けたり、人の過ちを指摘したとしても、絶対に自分の思う通りに人は動いてくれないのです。

 少しでも、相手を動かし自分の求める方向に事態を進めていくには、次のことが大切になります。一つは相手が正しいということを認めること。相手の「自己の重要感」を満足させるよう誠実に率直に褒めること。最後に相手の立場に立って相手が強い欲求を起こすような提案をしていくこと。以上が、人を動かす三原則とのことです。

 他に、人に好かれる六原則、人を説得する十二原則、人を変える九原則が語られています。それぞれ、相手に働きかけるテクニックのように見えて、一番大事なのは、相手の立場にたち、相手の欲求に働きかけるなど、相手任せにするためのテクニックです。あまりにも相手に譲りすぎのように見えますが、それが相手の行動を導く最善手のようです。

 この本の内容を理解すれば、職場のパワハラ、モラハラは無くなってしまうのではないかと思います。是非ご一読ください。

 

2021年3月3日水曜日

渡辺 一史 こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち (文春文庫 わ)

 

 

『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編299日目

 東京パラリンピックまで半年を切っているので、朝のニュースでは、パラリンピック競技や代表選手などの特集が増えています。正直言って、私はパラリンピックはあまりにもカテゴライズやルール上の縛りが多く、スポーツとして認めていないところがありました。しかし、よく考えるとスポーツってそもそもがルールやカテゴライズが前提の競争だと気付いたのです。つまり、パラリンピックこそ、スポーツの本質を突き詰めた大会はないと言っても過言ではなかったのです。限られたカテゴリーの中で、決められたルールにより、自分を突き詰め、競い合う競技の祭典。東京パラリンピックが無事に開催されることを祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、各々が持っているであろう障害者と健常者の線引きを破壊するインパクトのある本です。

 本書は、進行性筋ジストロフィーという難病にかかり、1日4人、1年でのべ1460人のボランティアに世話されなければ生きていけない鹿野靖明さんの生涯と、彼を世話するボランティアの回想録からなるドキュメンタリーです。

 鹿野さんがすごいのは、生きていくために必要な事が、一人では何一つできない人だという事です。立って歩くことはおろか、ご飯を食べることも、字を書くことも、寝返りも打てないし、呼吸もできません。全てボランティアや医療機械に支えてもらうことにより、彼は命をつなぐ事ができるのです。

 もっとも、同じような病をやんでいても、高額な医療費を払い、病院で命をつなぐ人もいるでしょうし、肉親の必死の介護により生きている患者さんもいるでしょう。しかし、鹿野さんの凄いところは、それらから自立しているところです。もちろん障害のため、ボランティアに支えられる事が前提ですが、彼は自立しています。自分でボランティアを確保し、ボランティアのシフトを組み、ボランティアを養成しながら、彼は自立しているのです。

 鹿野さんとボランティアの関係性は、決して支えられる人と、支える人というものではありません。そこにはお互い足りないものを補い合う、相互補完の関係だと感じました。片や人の世話にならなければ生きていけない鹿野さんも、ボランティアの人たちの役に立ってたと強く感じました。

 昔からよく、人の世話になって人に迷惑をかけるな、という教えを叩き込まれて来たように思いますが、本書を読んで間違いに気が付きました。それは、人の世話になる事と、人に迷惑をかける事は全く違う事だという事です。

 真夜中にバナナが食べたくなったら、隣で寝ているボランティアを起こして、食べさせてもらう。障害のため、一本食べることにも時間がかかり、ボランティアがもういいだろう、寝させてくれと言下に伝えても、もう一本おかわりする。生きることの真理が含まれているのかもしれません。

 『障害者』『ボランティア』という言葉に持つ先入観を変える一冊です。障害者、ボランティア双方から、ただ生きるという大きなテーマを掘り下げた名著だと思いました。是非ご一読ください。

2021年3月2日火曜日

窪 美澄 晴天の迷いクジラ (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編298日目

 昨夜のNHKの番組「逆転人生」がとても良かったです。東京電力の社員三人が、それぞれに原発事故の被災者に対して真摯に向き合っている姿が感動的でした。これが仕事上のことだけであれば、それまでのことですが、その社員三人は、個人的にもボランティアや被災地への移住などで、なんとか被災者の力になりたい、自分たちの罪を償いたいと言う気持ちで10年間生きてきたようです。どれだけ彼らに責任があるのかわかりませんが、十二分に誠実さが伝わってきました。再放送はわかりませんが、NHK+で多分観られると思います。

 さて、今日お勧めする本は、どれだけ辛いおもいをしていても、生き残ることは出来るはずだよって言う、心のサバイバル小説です。

 登場人物は、デザイン会社での激務と失恋で鬱を発症した由人、そのデザイン会社の社長で経営に行き詰まり自殺を図ろうとする野乃花、異常なほど過保護な母に追い詰められリストカットにはしる女子高生正子。この3人が一台の車で、湾に迷い込んだクジラを見に小さな旅をします。

 それぞれ抱えた心の闇は深いのですが、クジラを見ると言う一つのシンボルがやがて3人をそれでも生きるしかない。という思いに導いていきます。

 かなり重く感じる内容でしたが、読後感は凄くいいです。 作品全体から伝わってくるのは母親という存在と意義でした。実際、作中では、様々な母親が描かれています。病弱な長男を偏愛するあまり家族をおかしくしてしまう母親、子供を捨てる母親、子供を玉の輿に乗せようとする母親、神経質で過保護な母親、女手一つで懸命に子供を育てる母親。

 どの母親のエピソードも、読んでいて苦しいほど、リアルに伝わってきます。そして、その母親とは対照的に祖母という存在が二人、とても柔らかく描かれていて、ホッと、心が暖かくなりました。

 穏やかな海もひとつ迷えば、そこから抜け出せず、死に落ち行ってしまいます。タイトルも納得の作品です。是非ご一読ください。

 

2021年3月1日月曜日

武論尊 下流の生きざま


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編297日目

 3月になりました、医療従事者400万人へのコロナワクチンの優先接種が始まります。多分、この400万人は普段コロナ患者の治療にあたっていない医療従事者なのでしょう?そうでなければ、400万人も医療従事者がいて、医療崩壊するというのは、理解できないからです。医療に従事していれば、普通の人よりコロナの感染リスクが高いこともあるでしょうから、まあ良いのでしょうが、1万人程度の新規感染者で医療崩壊を起こすようなことはしないでほしいですね。

 さて、今日お勧めする本は、私も大好きな漫画原作者による人生指南本です。

 この本最大の魅力は、ヒット作を連発し圧倒的な実績を残した筆者が飛ばす、「努力しろ」と言う檄の力強さです。全力で努力して結果を残している人ですから、その言葉の破壊力は、無限大です。

 タイトルどおり、想定している読者層は下流です。社会に歴然としてある格差にもがく者たちは、どんな戦略を取るべきなのか?そこは、何の変哲もなく、どんな道を行くにしても大事なことは努力と継続との事です。

 そして、下流であることを素直に認め、失うものは何もないのだから上を目指して進んでいくしかないと説きます。そんな中でも、努力が限界まできたら、休むことも必要です。ただ休むのではなく、前に進むために休むのです。

 結局、自分をどの程度客観視できるかが、大事な力のようです。逆境と向き合い、決して卑下することなく、自分が勝負できる場所で、出来る努力を継続して、下流から一歩抜け出すのです。

 あと一歩前に進みたい時、力をもらえる本だと思います。是非ご一読ください。