2021年3月20日土曜日

伊坂 幸太郎 重力ピエロ (新潮文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト50日

 今日の地震も東北大震災の余震だそうです。我が家のたつ土地は震度3との事でしたが、遠方から伝わってきた振動は長く、ゆらゆらと周期の長いものに感じられました。まるで、急に地面が溶けて無くなり、水の上に浮かんでいるかのように続く揺れは、何度経験しても慣れる事はなく気分が悪いものです。 10年経っても被災地では気の休まる事はないのかと、本当に大変なことだと感じました。

 さて、今日お勧めする本は、家族の絆の強さを描いた小説です。

 主人公はDNAの分析などを行う会社に勤める泉水(いずみ)。その家族として、ピカソのように美術に非凡な才能を持って生まれ、落書きを消す仕事をしている、2歳下の弟の春、癌を患い闘病中の父親、そして既に亡くなっているのですが、回想の中で登場する元モデルだった美人の母親による家族の物語が語られます。

 一見平和そうな家族構成ですが、弟の春は、母親が被害に遭ったレイプの結果できた子供であるという、重い過去を持った家族です。しかし、母親が妊娠を告げたときに、父親は「よし、産もう」とほとんど悩む事なく、判断したのです。この父親の突き抜けた愛情と思いやりが、四人を最強の家族として結びつけているのです。春の出生の秘密を知った泉水が、春のことをどう思っているのかと質問したところ「春は俺の子だよ。俺の次男でおまえの弟だ。俺たちは最強の家族だ」と全くの自然体で、主人公を救う言葉を返してくれます。

 やがて、泉水や春の周りで、謎の言葉のグラフィティアートと関連した連続放火事件が起こり、泉水と春はその謎解きに挑み犯人を捕まえようとします。しかし、その事件には思いもよらぬ真相が隠されていたのです。

 本書の魅力は、血のつながりや遺伝なんてものともせず、固い絆で家族を結ぶ父親の存在だと思います。その父親は、作中でこう表現されています。「他人に能力をひけらかさない限りは、穏やかさだけが取り柄の、無能な人間に見えてしまう種類の人間だった。」私はこの父親が大好きで何度も本書を読んでしまいます。是非ご一読ください。

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