2021年3月3日水曜日

渡辺 一史 こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち (文春文庫 わ)

 

 

『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編299日目

 東京パラリンピックまで半年を切っているので、朝のニュースでは、パラリンピック競技や代表選手などの特集が増えています。正直言って、私はパラリンピックはあまりにもカテゴライズやルール上の縛りが多く、スポーツとして認めていないところがありました。しかし、よく考えるとスポーツってそもそもがルールやカテゴライズが前提の競争だと気付いたのです。つまり、パラリンピックこそ、スポーツの本質を突き詰めた大会はないと言っても過言ではなかったのです。限られたカテゴリーの中で、決められたルールにより、自分を突き詰め、競い合う競技の祭典。東京パラリンピックが無事に開催されることを祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、各々が持っているであろう障害者と健常者の線引きを破壊するインパクトのある本です。

 本書は、進行性筋ジストロフィーという難病にかかり、1日4人、1年でのべ1460人のボランティアに世話されなければ生きていけない鹿野靖明さんの生涯と、彼を世話するボランティアの回想録からなるドキュメンタリーです。

 鹿野さんがすごいのは、生きていくために必要な事が、一人では何一つできない人だという事です。立って歩くことはおろか、ご飯を食べることも、字を書くことも、寝返りも打てないし、呼吸もできません。全てボランティアや医療機械に支えてもらうことにより、彼は命をつなぐ事ができるのです。

 もっとも、同じような病をやんでいても、高額な医療費を払い、病院で命をつなぐ人もいるでしょうし、肉親の必死の介護により生きている患者さんもいるでしょう。しかし、鹿野さんの凄いところは、それらから自立しているところです。もちろん障害のため、ボランティアに支えられる事が前提ですが、彼は自立しています。自分でボランティアを確保し、ボランティアのシフトを組み、ボランティアを養成しながら、彼は自立しているのです。

 鹿野さんとボランティアの関係性は、決して支えられる人と、支える人というものではありません。そこにはお互い足りないものを補い合う、相互補完の関係だと感じました。片や人の世話にならなければ生きていけない鹿野さんも、ボランティアの人たちの役に立ってたと強く感じました。

 昔からよく、人の世話になって人に迷惑をかけるな、という教えを叩き込まれて来たように思いますが、本書を読んで間違いに気が付きました。それは、人の世話になる事と、人に迷惑をかける事は全く違う事だという事です。

 真夜中にバナナが食べたくなったら、隣で寝ているボランティアを起こして、食べさせてもらう。障害のため、一本食べることにも時間がかかり、ボランティアがもういいだろう、寝させてくれと言下に伝えても、もう一本おかわりする。生きることの真理が含まれているのかもしれません。

 『障害者』『ボランティア』という言葉に持つ先入観を変える一冊です。障害者、ボランティア双方から、ただ生きるという大きなテーマを掘り下げた名著だと思いました。是非ご一読ください。

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