2021年3月23日火曜日

高野 和明 13階段 (講談社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト47日

 地下鉄サリン事件が起こったのが、26年前の1995年3月20日との事です。昨夜のNHKニュースで、サリン製造を担当した土谷正実元死刑囚と面会した元・警視庁科学捜査官服藤恵三さんの特集を観ました。当時黙秘を貫いていた土谷被告に対し、服藤さんは土谷被告の考案したサリン製造法を土谷被告に図解して話したそうです。そこで、そこまでわかっていることを、黙っていても仕方がないと観念した土谷被告が自供を始め、事件が解決に向けて大きく前進したそうです。

 さて、今日お勧めする本は、死刑制度への疑問をテーマに持つ、ミステリー小説です。

 本書の主旨は、人は人の命を奪うだけの正義など持ち合わせていないって言う事だと思います。

 主な登場人物は、傷害致死で2年の実行判決を受け、刑期を終えたばかりの三上純一。純一を収監していた刑務所の刑務官であった南郷正二、そして、7年前の強盗殺人事件の犯人である死刑囚樹原亮です。

 刑務所を出所したばかりの三上は刑務官の南郷にスカウトされ、死刑囚である樹原の冤罪を証明するための仕事を引き受けます。南郷と三上が弁護士の杉浦から受けた依頼は、樹原の刑が執行される可能性の高い3ヶ月以内に樹原の無実を証明して、再審請求で無罪を勝ち取ることです。報酬は月に100万円、成功報酬は1000万円です。

 しかし、樹原の無実を証明しようにも、肝心の樹原は事件の前後3時間の記憶を逃走中?のバイク事故の後遺症で失っています。南郷と三上は、樹原がおぼろげながら思い出した「階段を登る記憶」を唯一の手がかりとして事件の真相に迫っていきます。

 傷害致死の前科を持つ者、刑務官として刑の執行とは言え、人の命を奪った経験に今もうなされる南郷と死刑囚として刑の執行に怯えて日々を過ごす樹原の三人の視点から語られる物語は死刑制度に懐疑的です。もちろん、犯罪被害者の苦悩についても十分語られつつも、人は人の命を奪うだけの正義を持ち合わせていないと言う前提は決して崩していません。

 物語が進み、謎が謎を呼び、二転三転するストーリーにページを捲る手が止まりません。三上の持つ秘密が明かされるエンディングには、大変驚かされましたが、納得のいくものでした。社会派であり、エンタメでありミステリーであると言う、三拍子揃った傑作です。是非ご一読ください。

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