2021年3月2日火曜日

窪 美澄 晴天の迷いクジラ (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編298日目

 昨夜のNHKの番組「逆転人生」がとても良かったです。東京電力の社員三人が、それぞれに原発事故の被災者に対して真摯に向き合っている姿が感動的でした。これが仕事上のことだけであれば、それまでのことですが、その社員三人は、個人的にもボランティアや被災地への移住などで、なんとか被災者の力になりたい、自分たちの罪を償いたいと言う気持ちで10年間生きてきたようです。どれだけ彼らに責任があるのかわかりませんが、十二分に誠実さが伝わってきました。再放送はわかりませんが、NHK+で多分観られると思います。

 さて、今日お勧めする本は、どれだけ辛いおもいをしていても、生き残ることは出来るはずだよって言う、心のサバイバル小説です。

 登場人物は、デザイン会社での激務と失恋で鬱を発症した由人、そのデザイン会社の社長で経営に行き詰まり自殺を図ろうとする野乃花、異常なほど過保護な母に追い詰められリストカットにはしる女子高生正子。この3人が一台の車で、湾に迷い込んだクジラを見に小さな旅をします。

 それぞれ抱えた心の闇は深いのですが、クジラを見ると言う一つのシンボルがやがて3人をそれでも生きるしかない。という思いに導いていきます。

 かなり重く感じる内容でしたが、読後感は凄くいいです。 作品全体から伝わってくるのは母親という存在と意義でした。実際、作中では、様々な母親が描かれています。病弱な長男を偏愛するあまり家族をおかしくしてしまう母親、子供を捨てる母親、子供を玉の輿に乗せようとする母親、神経質で過保護な母親、女手一つで懸命に子供を育てる母親。

 どの母親のエピソードも、読んでいて苦しいほど、リアルに伝わってきます。そして、その母親とは対照的に祖母という存在が二人、とても柔らかく描かれていて、ホッと、心が暖かくなりました。

 穏やかな海もひとつ迷えば、そこから抜け出せず、死に落ち行ってしまいます。タイトルも納得の作品です。是非ご一読ください。

 

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