2021年3月11日木曜日

石井 光太 遺体: 震災、津波の果てに (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト59日

 今日は東日本大震災から10年目の日です。今日も14時46分に黙祷のアナウンスが流れました。10年前、私は職場で地震を経験していて、経験したことのない長い揺れにびっくりしたことを覚えています。震度4以上の時に行うパトロールに出かけ、戻った時にあのショッキングな津波の映像をテレビで見ることになります。被害のなかった私ですらはっきり覚えているのですから、被災者の方々は忘れたくても忘れられない数日間だったのではないかと思います。残された方々の辛い気持ちが少しでも癒えてほしいと、祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、あの災害時に、亡くなられた方のご遺体の弔いに関わった方々の経験を記すルポルタージュです。

 本書では、遺体安置所で働くボランティアや、遺体の検死を行う医師、遺体の歯形を記録する歯科医師、遺体の運搬を受け持った市役所職員、供養を引き受けたお坊さんなど、多くの方が描かれています。彼らは、一つ間違えば自分も遺体としてそこに並んでいたと感じつつ、遺族の悲しみに押し潰されそうになりながら、懸命に自体収集のため目の前の業務に集中して取り組みます。それでもひきも切らず運ばれてくる遺体。中には当然、自分の友人や親戚もあり、悲しみに動けなくなりそうになっても、それでも仕事を続けます。

 中でも、印象的だったのは、葬儀場で務めた経験から、遺体安置所の仕切りを志願し、遺体を家族の元へ返したいという一心で働いた千葉淳さんの行動が胸を打ちます。千葉さんは、これまでの職業経験から遺体の取り扱いに詳しいことはもちろんですが、遺族の気持ちを十二分に察して、遺族の側にっ立った労りの言葉をかけていきます。この一言一言が読者の心も癒してくれるようでした。

 本書の登場人物の一人は、辛くてもあの災害を心に刻み、忘れないことが、生き残った我々にとって大切になってくると言います。1万人だとか2万人だとか、犠牲者を数字でとらえた途端、命の重さが何か別のもに置き換わってしまった私に、改めて一つ一つの命の重さを感じさせてくれた素晴らしい本だと思いました。また、改めて、弔うということの意味をを深く考える事が出来ました。これからも、具体的な行動を通じ、どんな形であれ、あの災害に向き合っていこうと思います。

 

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