2021年2月28日日曜日

東野 圭吾 容疑者Xの献身 (文春文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編296日目

 今日は、住宅ローンの借り換えを申込みました。私は変動金利なんて、不安定でいつ上がるかわからなくて怖いため避けていましたが、今の時代は安定して低金利のため、変動金利が有利だそうです。ちなみに変動金利の元になる短期プライムレートはバブルがはじけて20年以上ずっと低いままです。さらに、なぜ今が金利の最低値であるかというと、ズバリ短期プライムレートからの割引率が最大になっているのです。大事なのは割引率です。住宅ローンをご検討している方は、変動金利の割引率にご注目してご検討してください。

 さて、今日お勧めする本は、ベストセラー作家東野圭吾の直木賞受賞作です。

 本書の最大の魅力は、ガリレオこと天才物理学者の湯川学と、その最大の好敵手である、ダルマの石神こと、天才数学者石神の対決です。

 石神は、数学以外に友達がいないような生活を送っていますが、唯一心を寄せる女性がいます。それがアパートの隣人、花岡靖子です。靖子は別れた前の亭主から逃れるため、ホステスをやめて弁当屋で働いています。

 靖子は、どこかで自分の居場所をかぎつけた前夫の富樫から執拗に迫られ、中学生の娘美里とともに、その富樫を殺めてしまいます。その二人を救うため、靖子に想いを寄せる石神が事件の隠蔽と、警察への対応を引き受けます。

 そこから、警察対石神の知恵比べが始まりますが、石神の想定外であった事が、かつて大学で親友であった湯川が事件の謎解きに加わったことです。石神の巧妙な偽装も、湯川には通じず次第に真相に迫っていきます。

 石神が靖子を愛するがために下した、壮絶な決断とその真相にたどり着いたとき、私は凄まじい衝撃を受けました。そして、全編を通した石神の愛情の深さに涙腺が崩壊しました。作品中では、謎を解く湯川もかつてないほどに動揺し、かなり苦しい決断をすることになります。

 この作品をミステリーとしてか、純愛の物語としてか、楽しみ方は読者に委ねられますが、私は後者として、心揺さぶられました。是非ご一読ください。

2021年2月27日土曜日

守屋 淳 「勝ち」より「不敗」をめざしなさい (講談社BIZ)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編295日目

 今日は息子のスキー初体験の指導に、20年ぶりのスキーに行ってきました。雪国とは言え、スキー場まで車で20分というのは恵まれた環境です。こんなに近くにありながら、随分とご無沙汰していたものです。今回改めて感じたのは、スキーはコミュニケーションの多いレジャーだという事。滑っている時は一人ですが、移動するにも声を掛け合い、相手の体調や疲れ具合などもチェックし、リフトでは簡単な反省会。息子との絆も深まった気がします。

 さて、今日お勧めする本は、孫子の兵法などから処世術を説く本です。

 本書のテーマは、「人生やビジネスで最後に笑うためにはどうすればよいのか」という事だそうです。

 著者は冒頭から、孫子の教えの「勝つべからざるは己にあるも、勝つべきは敵にあり」という言葉をひき、孫子の教えに勝ち負けだけではない、不敗という考え方があると説きます。この不敗という概念が、戦略のパターンを増やしてくれるそうです。つまり、勝ちに行く、不敗を守り続ける、不敗の状態からタイミングを見て勝ちに行く。この3パターンです。

 インターネットの普及により、勝ち負け、正誤、正義不正義など二つに分ける考え方を強要される機会が増えたように感じます。そんな最近の傾向のなかで、この本のタイトル通り、勝つのではなく不敗というスタンスを目指すことはますます有効になってくるように思います。

 そもそも、勝ち負けの要因は個人の才能や努力のみで決する事は無く、外的要因に大きく支配されます。その外的要因の一つにパイが有るか無いかという事が大きく影響しているのです。パイが有るとは求める者に対して分け与える利益が十分にあるという状態を指します。このパイの有る無しで歴史の流れを語る第2章が興味深い内容でした。

 多くの故事を引き、先人の知恵に触れるのも非常に面白い。「愚公、山を移す」90歳を越えた老人が山を平らにして道を造ろうと考えました。馬鹿げた話に聞こえますが、それは家族や地域のみんなの利便を考えてのことでしたので、周囲の人の応援を得ることができます。ついには神様が山を動かして道を造ったというお話です。

 正直言って、どのような行動が不敗を目指す行動なのかよくわからない本ですが、繰り返す不敗の文字にイメージが掴めれば、本書を読んだ甲斐があうというものです。タイトルが良すぎて、中身が追い付いていない感はありますが、是非ご一読ください。

2021年2月26日金曜日

坂木 司 和菓子のアン (光文社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編294日目

 本日最大の衝撃は、行きつけの居酒屋さんが閉店するお知らせ。しょっちゅう顔を出すような上客ではなかったのですが、何かにつけて利用しているお店でした。基本的に一人で行く事が多かったのですが、大事な友達と飲む時は、そこを選んでいたんです。時には、立ち寄ったのかどうか、思い出せないくらい酔っ払ってよる時もありました。10年来のお付き合いでした。良い思い出をたくさんいただきました。本当に感謝しています。

 さて、今日お勧めする本は、読者をホッコリとさせてくれる日常ミステリーの連作短編小説です。

 先日紹介した「満願」が日常の狂気を炙り出すミステリーなら、本作はその正反対にある作品だと思います。誰もが抱える大切な想いが謎解きのテーマとなっているのです。

 主人公は、高校を卒業し、進学にも就職にも煮え切らない、アンちゃんです。アンちゃんは身長150センチ、体重57キロという、小柄でぽっちゃり体型。外見に自信もなく男性が苦手な女の子です。そんなアンちゃんは、ふとしたきっかけで、デパ地下にある、みつ屋という和菓子屋さんでバイトを始めます。

 アンちゃんの同僚は、見かけは上品ですが中身はおっさんの女性店長椿さん、和菓子職人を目指す乙女心を持つイケメン立花さん、可愛らしい女子大生とおもいきや実は元ヤンの桜井さん。など、バラエイティ豊かな面々です。

 そんなキャラクターに囲まれて、アルバイトとして接客をしながら、あんちゃんが日々成長していく物語が微笑ましくて良いです。本書を読んで和菓子、それも上生菓子が食べたくなりました。和風(和菓子)というと、私は、大人っぽさ、静かさ、やさしさをイメージしますが、まさに、ほんわかと静かでやさしい空気に包まれた、日常ミステリー連作短編です。

 ほんわかとした、日常の謎解きを楽しめる本作です。是非ご一読ください。
 

 

2021年2月25日木曜日

米澤 穂信 満願 (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編293日目

 先日は職場へ向かう東京行きの新幹線が結構混んでいたので、何があったのかと思えば、国公立大2次試験の前期日程が今日から始まったそうです。今年はコロナの影響で集中して勉強できる環境ではなかった上、10日前には震度6強の地震が起こるなど、とんでもない逆風の中、試験を受けている受験生がいます。そんな受験生たちが存分に実力を発揮し、それぞれが満願成就を果たせるよう祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、少し狂気じみていながらも、様々な賞を受賞したミステリー短編集です。

 本書は、表題作「満願」の他に「夜警」「死人宿」、「柘榴」、「万灯」、「関守」の全六篇からなるミステリー短編集です。

 それぞれに、冷静な語り手と狂気を帯びた犯罪者が登場し、このギャップが作品全体を通したトーンを形成し、なんとも薄暗い作品世界が伝わってきます。

 作品一つ一つの概要を説明したいところもあるのですが、ネタバレになると、作品の魅力が半減してしまうかもしれないので、ほどほどにしておきます。

まず、表題作「満願」では、語り手の藤井弁護士と殺人の罪で服役を終えた鵜川妙子の話。学生時代に妙子の家に下宿していた藤井は、その縁から妙子が犯した殺人死体遺棄の事件の弁護を担当する。しかし、有利と考えていた控訴審を間際で取り消し刑に服した妙子の判断に疑問点を抱いていた藤井は、出所した妙子が挨拶に訪れる連絡を受け、事件を回想する中で学生当時の思い出から、事件の重大な核心に気がつく。

 また、「夜警」では、事件当時交番長だった語り手柳岡とその部下で殉職した新人警官川藤の話。小心者で小狡い川藤は警官に向かないと感じていた柳岡は、川藤の殉職した事件について、川藤の実兄に語り、兄から重要な証言を得ます。そうして、その事件を考え直した時、柳岡は事件に隠された重大な事実に気がつきます。

 他の4篇も、それぞれ過去に起こった出来事を思い返す形で真相が知らされるという構成になっており、その真相が少し狂気じみていて怖いです。

 ミステリーが好きだけど本書は未読という方は、ぜひご一読下さい。

 

2021年2月24日水曜日

石田 淳 行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編292日目

 久しぶりにYahoo!のニュースを覗いてみると、『GACKT、「分かってねえ!」と激怒し出国 愛犬譲渡炎上のその後』なんて記事が載っていました。概要は、GACKTさんが買っていた愛犬をペットロスの知人に譲ったという話をYouTubeで上げたところ、ペット愛好家などから大ブーイングを受けて、GACKTさんが他国にある自宅に帰りましたという記事です。くだらない。ネットニュースは正直言って、オワコンと言っても良いんじゃないかと思います。これからも、友達のシェアしたニュース以外は極力触れないように気をつけて行きたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、なかなか仕事を覚えないとか、思うように動いてくれないなど、部下に恵まれず四苦八苦している方にお勧めの本です。

 本書は、行動科学の視点から、組織を運営したり部下を指導したりするための技術を伝授する本です。まず、指示どおりに部下が動かないとか、人が育たないというのは、上司が教え方を知らないからだと、喝破します。

 「教える」ということは部下が組織にとって有益な行動をとれるように変化させることを最大の目的としています。なので、その指導、育成も部下の「行動」を改善することに焦点を当てたものでなければならないのです。

 本書の中でも、教える内容は知識と技術に分けて、部下の知っていること、知らないことを把握する。同様に、出来ること、出来ないことを把握することが大事ということは、目新しい発見でした。

 もちろん、本書は教える技術を教える本ですので、全体的にわかりやすく、すぐに行動出来る内容に特化しており、非常に示唆に富む内容です。

 以下書抜、『教えるとは、相手から望ましい行動を引き出す行為。人が育たないのは、教え手が「教え方」を知らない、原因はこの一点。』『いたずらに精神論に行くのではなく、「行動」に焦点をあてる。教える内容を「知識」と「技術」に分ける。』『指示や指導は具体的な表現に言語化する。』『あえて易しいテストで100点を取らせ、成功体験で成長をサポートする。』『望ましい行動を継続させるために、褒める事で行動を「強化」する。』

 部下に恵まれず、いつも苦労しているあなたは、実はご自分に教える能力が足りないだけなのかもしれません。その事を確認するためにも、ぜひご一読下さい。

 

2021年2月23日火曜日

宮部 みゆき 火車 (新潮文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編291日目

 新聞など報道によると、2013から2015年に行われた生活保護費の減額は違法との判決が大阪地裁で下されたそうです。確かに、厚生労働省が引き下げの根拠とした説明は確かに、減額するための辻褄合わせに感じられるところはありますが、生活保護費と最低賃金や年金受給の逆転現象など考えると、裁量権の逸脱や乱用とまで断じるのは如何なものかと思います。

 さて、今日お勧めする本は、経済的に行き詰まり姿を消した謎の女性を追うミステリーで、著者の代表作とも言われる作品です。

 主人公は、公務で足に怪我を負い休職中の刑事である本間。本間は遠い親戚の和也から人探しの依頼を受けます。それは、失踪した彼の婚約者関根彰子です。ふとしたきっかけで、和也は彰子がクレジットカードによる借金で自己破産していたことを知ります。和也が自己破産について彰子に問いただした翌日、何の説明もなく彰子は姿を消してしまうのです。

 休職中とはいえ、刑事としての好奇心から捜索を引き受けます。しかし、調べ始めてすぐに、本間は彰子の過去が虚偽により隠されていることに気がつきます。そして、自己破産していた彰子と和也の婚約者である彰子が別人であるという仮説を立てるようになります。

 彰子の本当の過去と正体が、本間の捜索により次々に明らかになり、本間はとんでもない犯罪の可能性に気がつきます。

 著者によるミステリーは、謎が少しずつ明らかになっていく真相の見せ方がうまく、謎解きの過程を楽しませてくれる作家さんだと思います。本書も長い話ですが、どんどん物語に引き込まれ、最後まで一気読み必至の傑作です。ぜひご一読下さい。

2021年2月22日月曜日

養老 孟司 バカの壁 (新潮新書)


 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編290日目

 東京都での新型コロナ新規感染者数が200人を下回り178人の感染が確認されたそうです。私には第3波もようやく終息したというニュースと受け取ったのですが、ネットでの口コミは千差万別です。むしろ、まだまだ怖いと言うのが多数派のようです。コロナ騒動ほど数字に対する受け止め方の個人差が大きいことを実証した事案はこれまで無かったように思います。これからは、ワクチンにより終息に向かっていくと思われますので、個人的にはかなり安心しています。

 さて今日お勧めする本は、認知能力などの違いがもたらすコミュニケーションの不具合について論じるエッセイです。

 本書の最大の功績は、人それぞれの認知の境界を「バカの壁」と言う強烈なキーワードで括ってみせたことです。

 本書のタイトルを目にした人は、「バカの壁」とはいったい何を示しているのか興味を持つと思います。しかし、「バカの壁」とは、わかる人にはわかるが、わからない人にはわからないと言う境界線を表現したものでしかありません。ですので、「バカの壁」が大事なのではなくて、「バカの壁」がもたらすコミュニケーションのギャップがさまざまな場面で問題をもたらすということです。

 認知の違いとは、同じ場面を見たり、同じ情報に触れても、理解したり受け取る情報は人それぞれで、その人の能力はもちろん、経験や環境などが大きく影響して、情報が受け取られるそうです。

 昔から「話せばわかる」と言う言葉もありますが、認知の違いが有れば、いくら頑張って話したところで、相手は自分の言葉を100%受け取ることができず、話してもわからないことが、世の中に溢れているそうです。それは、常識という世の中のあたりまえであることも人それぞれで異なるということです。それは人それぞれの正義の違いにも言えることであり、世の中の争い事は、人それぞれのわかる範囲の違いで起こると言っても過言ではないことを本書では示唆しています。

 正直言って、本書は著者の話言葉を口述して書かれた本なので、言葉の意図にたどり着くにはかなりの読み込みが必要と思います。私もこの本は何回か読んでようやく分かりかけてきたところです。それだけ奥が深く面白い本ですので、ぜひご一読下さい。

2021年2月21日日曜日

石川 達三 生きている兵隊 (中公文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編289日目

 全豪オープンでは、大坂なおみ選手が見事2年ぶり2度目の優勝を遂げました。私もテレビで観戦していたのですが、素晴らしい試合でした。皆さんご存知のとおり、大坂選手は、お父さんがアメリカ人、お母さんが日本人のハーフで、全米オープンで初優勝した時は、両方の国籍を持っていたのですが、一昨年日本国籍を選択し、アメリカ国籍を放棄した日本人です。私は単純に、日本人が世界で活躍するところを見ることは嬉しいので、彼女の活躍は嬉しいです。そして、彼女が選択した日本国籍についても誇りに思うし、誇らしい国であり続けたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、そんな日本がやらかした最大の失敗である日中戦争のルポルタージュです。

 本書は、日中戦争の最中、昭和13年に発表され、即日発売禁止となったことで話題の作品です。正直言って、日本兵による非人道的な行いが生々しく描写されており、読み通すのも無理という人がいてもおかしくない作品です。

 本書の主な登場人物は、先生あがりの小隊長倉田少尉、ロマンチスト代表平尾一等兵、医大卒の研究者近藤一等兵、戦友に対する愛情が深いが敵を人と思うことなく迷いなく殺せる生まれながらの兵隊笠原伍長、スコップで人を殴り殺す従軍僧片山玄澄。いずれも、平時の日本であれば犯さないであろう殺戮に手を染めます。

 本書では、戦場の民間人が、如何に無惨に殺されていくかを生々しく描写していきます。私を含め、やや右寄りな人が言う、日本があの戦争に踏み切るのは仕方がなかった、兵隊さんは祖国のために命を犠牲にして戦った。なんて言う綺麗事は、全く説得力を持たない世界です。

 兵隊は、ただ命令に従って戦い、戦いの合間には、その土地のものを奪い、人を殺すろくでもない存在です。昔プラトーンと言う映画がヒットし、ベトナムでのアメリカ兵の非情さを伝えることになりました。しかし、本書で語られる中国での戦争は、比較にならない非人道的な行いがあったことを示しています。

 本書で一番怖いのは、兵隊たちの悪虐非道な行いが、日本人に良くある悪ノリで行われているように思えるのです。つまり、渋谷のスクランブル交差点などで悪ノリして大騒ぎしている若者たちは、倉田、平尾、近藤のように平気で悪虐非道なことができると言うことです。私も、きっとやらかす悪いノリです。

 戦争の残虐さを知るためには、これぐらいのショックに耐えなければいけないのかもしれません。ぜひご一読下さい。

2021年2月20日土曜日

司馬 遼太郎 新装版 翔ぶが如く 全10巻(文春文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編288日目

 今から144年前に、西南戦争が勃発しました。2月20日は薩軍が熊本城にたどり着いた日です。熊本城を守っていた鎮台兵が薩軍に発砲し、ここから7ヶ月間にわたる長い戦いが始まったのです。

 ということで、今日お勧めする本は、サムライの時代から今に続く新しい時代に変わる決定的な転換点となった西南戦争を記録した小説です。

 本書から伝わる三つのポイントは、薩軍は男らしさに頼りすぎて勝つための議論ができない組織であったこと。西郷隆盛は西南戦争ではシンボルになることに徹して指揮を取らなかったこと。明治政府は元侍である士族たちにいつでも倒せる政府だとなめられていたことです。

 まず、本書で語られる明治政府は人材も少なくかなり不安定な組織であったと言うことです。圧倒的な実力者は大久保利通と西郷隆盛なのですが、後は佐賀の乱で死んだ江藤新平や、板垣退助など、実力者が次々に政府を離れていきます。各地で反乱が起こるなど、

 そして、西郷も政府を離れるのですが、それまでとはうって変わって、猟にばかり出かける世捨て人のような暮らしをしています。それは維新で活躍した偉人には見えない様子であったそうです。この西郷を慕って鹿児島に結集する士族たちは西郷を暗殺しようとする政府に一言口上を述べようと東京へ向けて兵をあげるのです。しかし、西郷は最後まで薩軍の指揮を取ろうとせず、明治政府に敗れることに使命を果たそうとしているように見えます。

 私にとって本書は、明治政府に対するイメージをガラリと変えてくれる本でした。ぜひ、ご一読下さい。

2021年2月19日金曜日

白石 一文 ほかならぬ人へ (祥伝社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編287日目

 昨日の報道でもあったが、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の新会長に橋本聖子参院議員がついたとのこと。まあ、既定路線どおりと言う感はあるが、まずは、無事に開催に向けて全力を尽くしてほしい。驚いたことに、アンケートなどでは大半の人が東京オリンピックは中止するものと考えているらしい。それもこれも、マスコミの悲観的な煽り情報がもたらした結果と私は感じていますが、とにかく、開催はマストだと思っています。これだけ、コロナがコントロールされ、医療環境も十分確保されている先進国として胸をはって世界に発信してほしいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、恋愛について深く考えるキッカケになる本です。

 『ほかならぬ人へ』と『かけがえのない人へ』の2編の小説からなる本です。

 表題作『ほかならぬ人へ』が、私は好きです。主人公は、宇津木明生。元麻生のお屋敷が実家というお坊ちゃんです。しかし、明生は兄たちに比べ出来が悪く、生きることに辛さを感じながら生きています。

 そんな明生にもチャンスが訪れ、池袋のキャバクラで出会った「ブクロのミキティ」と称されたなずなと結婚します。しかし、誰もが羨む美人との結婚生活は長く続かず、結局なずなとは別れることになります。なずなとの関係が悪化する中、職場の上司東海さんにひかれ、頼っていく自分に気がつきます。東海さんはブサイクですがバツイチで凄腕のキャリアウーマンです。

 なずなと別れてからの東海さんと明生の物語が心に残る作品です。大人になってからは、恋愛についてあまり考える機会を失ってしまいがちですが、この作品から、あらためて恋愛に向き合うことができると思いました。ぜひご一読下さい。

2021年2月18日木曜日

山田 真哉 さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編286日目

 新型コロナウイルス対策の専門家組織「アドバイザリーボード」は、「減少が続くが、夜間の人流の再上昇が見られる地域もある。感染減少のスピードが鈍化している可能性もある」との見解を公表したそうです。皆さんは、勘違いしていないとは思いますが、これはあくまで、病気としてのコロナの専門家の見解です。経済的な影響や、子供たちへの教育的影響など多角的な観点で検討した上での意見ではありません。この人たちの言うことを聞くのは、半分くらいにしておいた方がいいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、身の回りにある経済的な疑問をわかりやすく会計学の視点から解説してくれる本です。

 本書は会計学の入門書とも言える本ですが、内容は非常にわかりやすく、数字や専門用語も最小限ですので、抵抗感なく読み進めることができます。

 身の回りにある経済的な疑問とは、誰も買っていないようなさおだけ屋さんや、住宅街で人通りも少ないところにある高級レストランや、在庫を山のように抱えたお客も見かけない自然食品店など、どうやって成り立っているのかわからない商売に対する疑問です。その疑問に対して、タネ明かしの裏話から始まり、そのタネ明かしについて会計学の観点から解説してくれるのです。

 会計学というと難しそうに感じますが、この本のように噛み砕いてもらうと、実生活の中でいかに有用な学問であるのか腑に落ちます。これまで、このようなお金にまつわる知識には興味はなかったのですが、改めて学ぶと非常に応用のきく大事な知識だということに気づくことができました。

 お金の知識は自分の人生の豊かさに直結する知識です。ぜひ、ご一読下さい。

2021年2月17日水曜日

誉田 哲也 増山超能力師事務所 (文春文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編285日目

 いよいよ新型コロナのワクチン接種が始まりました。マスコミはこぞって接種の状況を生中継するなど、相変わらず呑気な仕事ぶりのようです。他にニュースは無いのでしょうか?13日の地震の被害や先日の低気圧通過に伴う防風被害についてはちゃんと伝えているのでしょうか?インターネット全盛の今、視聴者からそっぽを向かれて、公共の電波が宝の持ち腐れにならないように祈ってます。

 さて、今日お勧めする本は、超能力があることが前提ですが、超能力師稼業も楽ではないよと言うお仕事エンタメ小説です。

 本書の魅力は、超能力の存在が確認され、超能力師と言う資格が存在する世界が舞台となっていることです。その世界での超能力に対する認識は、持っていても何でもできるってわけではないよ。って言うスタンスで、それが読んでいて妙に納得させられます。

 資格である超能力師には、一級と二級があります。物語の舞台となる増山超能力師事務所には、所長の増山が一級で、あとは悦子、健、篤志の二級超能力師三人が働いています。経理を担当する朋江さんは超能力はありませんが誰よりも人の心を察する能力が高く、超能力なんて厄介なもの位にしか思っていません。そこに、美人のオカマ明美が見習いとして入社してきます。

 とにかく、所長の増山が凄腕の超能力師でカッコイイです。増山所長は、超能力ってそんなに便利じゃないですよというスタンスで、超能力者が差別無く平和に暮らせる社会を作ろうと奮闘しているのです。彼は超能力師と言う資格ができる前からこの世界で仕事をしてきた人間なのです。

 ユーモア溢れるミステリーとして、非常に魅力的な一冊です。ぜひ、ご一読下さい。

2021年2月16日火曜日

モーニング編集部 , 朝日新聞社 40歳の教科書NEXT──自分の人生を見つめなおす ドラゴン桜公式副読本『16歳の教科書』番外編


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編284日目

 帰宅時、職場から長岡駅までバスに乗ります。そのバスが新幹線発車の3分前位に駅に着くので、バスを降りたら200mほど走ります。毎年1月に行われる西宮神社の「福男選び」みたいに駅構内を走り抜けます。30分もかからず、次の新幹線が来ることは分かっていますが、走れば間に合う状況なら私は迷わず走ります。今日は在来線が風で運休、遅延が頻発しダイヤはメチャクチャですが走るのです。新潟駅で発車を待つ間、呑んで帰れるかも知れませんからね。

 さて、今日お勧めする本は、先日紹介した「40歳の教科書」の続編です。

 前回は子育てに関する課題がテーマでしたが、今回は人生の折り返し地点とも言える40歳代をどう過ごすのかと言う、自分の人生に対する課題についての講義となります。

 本書では『40歳は人生の折り返し地点か?』『「心の危機」をいかに乗り越えるか』『親との関係を問いなおす』『経験を武器にするには、何が必要か?』と言うテーマについて、それぞれ3人ずつ総勢12名のスペシャリストたちが、特別講義を行うという体裁で意見を述べています。

 本書の冒頭でも前回同様、開講の辞として、本書の意義、狙いが記されています。今回は「自分以外の誰か」を優先するあまり、おろそかにしてきたかもしれない「自分」に焦点を当てたとのこと。少しずつ忍び寄ってくる心身の衰え。30代から40代にかけて急増する心の病と心の危機。新たな段階を迎える親との関係。そして確かな武器として残された、過去の経験。40歳の今考えてもらいたく、テーマに据えたそうです。

 『40歳は人生の折り返し地点か?』と言うテーマでは、人生いつでも通過点と言う青木功氏の言葉が熱くて、とにかく良かったです。他にも、脳は年齢とともに衰えるということはない。むしろ向上する能力があるという池谷裕二氏。など、40歳は決して下り坂の入り口ではないことが伝わってきます。

 『「心の危機」をいかに乗り越えるか』では、「うつとは人が疲労しきった状態のことである」と定義する下園壮太氏が登壇。心は体と同様に疲れてしまうものなのだそうです。若いうちは有り余る体力を頼りに遊びまくってストレスを発散できるのですが、歳を重ねると心のリフレッシュより先に体が疲れ、心にも負荷がかかるとの事です。「心の風邪」という表現はうつが簡単に治るという誤解を生みかねないので、「心の骨折」と呼ぶことにしているそうです。

 また、『経験を武器にするには、何が必要か?』では、経験を重ねれば良いというものではない。感性を鈍磨して感動が薄れてしまう危険性をはらんでいると言う亀山郁夫氏の警鐘は非常に参考になりました。

 40歳ではないかもしれませんが、今の自分を向き合うきっかけとして、本書を手に取ってみては如何でしょうか?

2021年2月15日月曜日

有川 浩 阪急電車 (幻冬舎文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編283日目

 2月も半ばになると好天が続き、家の周りの雪もだいぶ消えてきました。天気予報では、今日の雨が明日以降、雪に変わるそうです。また雪が降って無駄になることは分かっているのですが、やはり、何とか早く解けてもらいたいと思い、運動不足解消など理由をつけて雪いじり。雪国では春は待つものではなく、労働の対価として得るものという感じがします。明日から、また電車の遅延等に注意しなければいけません。

 さて、今日お勧めする本は、8駅片道15分と言うローカル線を舞台に繰り広げられる連作短編小説です。

 その舞台は阪急今津線、宝塚駅から西宮北口駅までの8駅の片道15分のローカル線です。一駅一駅のタイトルで、物語が編まれています。そうして、往復16話の物語が語られます。登場人物はそれぞれの駅で乗り降りしてくる乗客たち。電車に乗るまでか、電車の中で各々の人生におけるターニングポイントを迎えます。

 例えば、電車の中で初めて言葉を交わして知り合うカップル。婚約者を寝取られながら、復讐のために出席した結婚式帰りの女性。DVな彼氏との別れるきっかけを掴んだ女性。おばさんグループに馴染めないストレスに苦しんでいたがグループからの離別を決める主婦などです。

 本書の魅力は、電車が駅に停まるたびに、次々入れ替わる登場人物たちの繋がりが、陸上のリレーを見ているように、受け継がれていく様子です。受け継がれるバトンは、登場人物を通じて世の中をホッコリ温めてくれる優しさです。

 著者の描く登場人物は、世間の常識や客観的な視点を共有しあえる稀有な存在です。そうでなければ、白いドレスを着た結婚式帰りと思わしき女性に「討ち入りは成功したの?」なんて老婦人が声をかけることなんてありえないことです。

 周りの人々に慮る人に囲まれる擬似体験を味わえる有川ワールド全開の本書は、かなり世間の荒波を和らげてくれる効果があると思います。ぜひ、ご一読下さい。

2021年2月14日日曜日

モーニング編集部 , 朝日新聞社 40歳の教科書 親が子どものためにできること ドラゴン桜公式副読本『16歳の教科書』番外編


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編282日目

 昨夜の地震では、宮城、福島両県で最大震度6強を観測したそうです。今のところ、死者はなく、150人超の負傷者がいるそうです。揺れが大きかったわりには、人的被害が少ないように思えて、ホッとしています。しかし、各地で停電の発生や、東北新幹線の運休など、生活にはかなり影響が出ているようです。これから報告されてくる家屋の被害も現地の方にとっては深刻だと思います。コロナ禍でまだ寒い中、避難所の生活は大変そうです。受験シーズン真っ只中ですから、被災した受験生の皆さんについても心配です。実力を発揮して、希望校で春を迎えられるよう祈っています。

 さて、今日お勧めする本は、中高生の親にとって子育てを振り返るための教科書です。

 本書は、「英語はいつ学び始めるべきか?」「中高一貫校は人生のプラチナチケットか?」「お金と仕事をどう教えるか?」「挫折や失敗をした子どもにどう接するか?」と言うテーマについて、それぞれ3、4人ずつ総勢14名のスペシャリストたちが、特別講義を行うという体裁で意見を述べています。

 本書の冒頭では、開講の辞として、本書の意義、狙いが記されています。それは、教育や子育てに正しい答えなどない事。世に溢れる教育論や子育て法は全てが仮説であり、その仮説を仮説のままにしておくのではなく、検証する作業が必要である事。検証する方法としては、とにかくたくさんの意見に耳を傾けて、自分とまったく異なる意見や価値観の持ち主に話を聞いて、自分の視野を広げることであり、そのために編まれた本であるそうです。

 4つのテーマのうち「英語はいつ学び始めるべきか?」では、識者の多くは、英語を小学校から学ぶことに反対し、まずは日本語をしっかり学ぶことの意義が述べられています。

 「中高一貫校は人生のプラチナチケットか?」では、中高一貫校を目指す、いわゆるお受験ブームを諫め、公立校をあえて選択する意義について語られているようです。

 教育や子育ては4つのテーマ以外にも様々な事を親として考える必要があると思いますが、まずは本書で14人の講義に目を通すことから始めてみることが、手軽で良いのではないでしょうか?ぜひご一読下さい。

2021年2月13日土曜日

奥田 英朗 ガール (講談社文庫)


 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編281日目

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長人事が何やらややこしい事になっているようです。いっときは川淵さんの就任と思われていたものの、再度、アスリートを中心としたメンバーで構成する委員会を設置して候補者を選定するとの事です。ルールでは理事会から選ぶことになっているのですから、すでに35人もいる理事の中から選ぶだけでいいと思うのですが、ここに来て女性が選ばれた方がいいとか、ポリティカルコレクトネスが幅を利かせているようです。

 さて、今日お勧めする本は、30代半ばの働く女性を主人公とした短編小説集です。

 『ヒロくん』『マンション』『ガール』『ワーキング・マザー』『ひと回り』の5編です。それぞれ東京のオフィスで働く、30代半ばの女性が主人公となり、それぞれの悩みに向き合うお話です。

 表題作『ガール』では、広告代理店に勤める32歳独身の滝川由紀子が、主人公です。これまで若い女の子という括りでチヤホヤされてきたのですが、そのギャルとしての潮時を感じ始めます。そんな時に4歳年上の「お光」こと光山が全く周りの目を気にすることなく、ガールとして今を謳歌している姿がイタく見えるとともに、明日は我が身と思い知らされます。しかし、お光と共にやり遂げた仕事を通じて、一つの変化をすると言うお話です。

 『ひと回り』は、老舗の文具メーカーに勤めて10年以上となり、新人の教育係を任される小坂容子が主人公です。新人の慎太郎は醤油顔のイケメンで性格も良い好青年です。まだ独身の容子はひと回りも年下の慎太郎に惹かれてしまいます。イケメンで好青年の慎太郎の元には、彼とお近づきになりたい若い女性社員が、あの手この手でアプローチしてきます。容子は彼女たちに慎太郎を取られまいと年上ならではの経験を総動員して、その誘惑を振り払います。いつの間にか、若い彼女たちに混じり、慎太郎に熱を上げている自分に気がつきます。容子の恋の行くへは?

 働く女性が抱える悩みをテーマにしながらも、非常に後味良く読める作品です。男女を問わず楽しめると思いますので、ぜひご一読下さい。
 

2021年2月12日金曜日

福井 晴敏 亡国のイージス 上下巻(講談社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編280日目

 森会長が辞任だそうです。私は非常に残念です。なぜなら、あまりに減点主義が行き過ぎているように思えるからです。本来なら、人は仕事の成果や能力で評価されるべきです。こんなあげ足取りが大事な人事に影響するのは、少し度を超えたただの祭りです。ハロウィンのスクランブル交差点のように見えます。今日の報道番組では、森会長の辞任を求める男性のコメントが放送されていました。曰く「これで問題が解決されたわけでは無いので、私たち一人一人がキチンと向かい合っていく必要があります」だそうです。私には、何が解決されていなくて、何に向かい合っていく必要があるのかさっぱりわかりませんでした。こんなコメントを垂れ流しているマスコミもどうかしています。こんな減点主義の世の中をプラスに持って行きたいのですが、本当に難しい課題です。

 さて、今日お勧めする本は、海上自衛隊を舞台としたダイハードとでも言うべき小説です。

 主要な登場人物は、家庭環境に恵まれず人付き合いが苦手なまま、努力と才能で生き抜こうとしている、如月行。海上自衛隊に唯一の居場所を見つけ、舞台となるイージス艦いそかぜの隅々まで熟知した、下士官のリーダー仙石恒史。海上自衛隊を親の代から勤め、数々の試練を乗り越え幹部候補まで出世したが、大事な一人息子を失い心に空白ができてしまった、イージス艦いそかぜの艦長宮津弘隆。

 北朝鮮の工作員と結託した、イージス艦いそかぜの乗っ取り、東京湾の制圧といった反乱が発生し、この3人が巻き込まれていきます。これ以上はネタバレになってしまうので書けませんが、息をもつかせぬストーリー展開に、分厚い本なのですが、一気に読み終わってしまいます。

 海上自衛隊の装備や組織についてかなり詳しく書いてあるので、自衛隊にも興味が湧きましたし、日本の国防といことも大変考えさせられました。

 少し、硬派なテーマですが、展開はダイハードのように痛快な話となっていますので、ぜひご一読下さい。

2021年2月11日木曜日

小路 幸也 娘の結婚 (祥伝社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編279日目

 今日は、新発田市生涯学習センターに家族で行ってきました。講堂で行われた、わたじん楽器ヤマハ音楽教室主催の発表会で娘が演奏するので、その応援です。発表会って、そこでたった一曲演奏するだけで、何千円も参加費がかかるので、教室がボロい商売しているように見えます。しかし、発表会までの娘の練習状況や上達ぶりなど見ていると、教室に通う子供たちの成長に絶対に必要なものだと思います。今年はコロナ禍のため、対策を万全に開催されました。本当に関係者の方々に感謝です。

 さて、今日お勧めする本は、男手ひとつで育てた娘を嫁に出す親の物語です。

 主人公は國枝孝彦。國枝は百貨店に勤めていて、職場結婚した妻を16年前に交通事故で亡くしています。忘れ形見となった、娘の実希が会って欲しい人がいると、言ってきます。実希はもう25歳で、結婚を考えている相手の紹介とのことです。当然相手から娘さんと結婚させて下さいと、頭を下げられる儀式も想定されます。

 國枝にとってもめでたい話ではあるのですが、その相手は自分も知っている男でした。彼は実希の幼馴染、妻が亡くなるまで実希と三人で住んでいた賃貸マンションの隣人の息子さんだったのです。その隣人とは家族ぐるみで付き合っていたのですが、妻を失った直後、そのマンションから引っ越す事にした國枝に、亡くなった妻と隣人との不仲を忠告する近所の人間がいたのです。

 娘たちだけでも幸せであれば良いと考える國枝ですが、妻と不仲であった隣人と、嫁姑の関係になっても大丈夫なのか不安が拭えません。そんな娘の結婚に向かっていく過程で、亡き妻に関する様々な真実が明らかになっていく、そんなお話です。

 とにかく、親子のお互いの愛情にホッコリさせられました。最初から最後まで自分の娘の判断を大切にしようと言う國枝の愛情に感動しました。なにせ登場する人物一人一人が、温かくとても良い人ばかりですので、安心して読み進める事ができました。人間関係に疲れた時に読むと癒されて良い本だと思います。ぜひご一読下さい。

2021年2月10日水曜日

梅棹 忠夫 知的生産の技術 (岩波新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編278日目

 今日の新潟日報によると、ラジオパーソナリティの遠藤麻理さんが明日11日午後1時からBSNラジオで公開生放送するとのことです。そしてゲストとして、FMPORTの閉局特番で共に司会を務めた松本愛さんだそうです。松本さんの声を聞くのは久しぶりですので楽しみです。

 さて、今日お勧めする本は、50年も前に書かれた創造的な知的生産の技術を伝える本です。

 本書の主旨は、大量の情報に溢れた社会では、いわゆる研究者では無い、一般家庭においても知的生産の技術は必要だよ、ってことだと思います。

 50年前にも増して今では、インターネットを通じ、大量の情報に我々は取り囲まれています。今はさらに知的生産の技術が求められている時代と言って良いでしょう。

 知的生産とは何かといえば、人間の知的活動のうち、新たな情報の生産に向けた行動の事だそうです。情報というのは何でもよく、知恵、思想、かんがえ、報道、叙述、広く捉えて良いそうです。つまり知的生産は頭を働かせて、何か新しい事を人にわかる形で提出する事だそうです。

 本書の前半では、情報の受け止め方、保存、整理について。後半ではどのように表すかという感じで成り立っています。

 パソコンどころか、ワープロもなく、英分タイプライターがやっとの時代のハウツー本ですが、学ぶべきところは非常に多いと思いました。ぜひご一読下さい。

2021年2月9日火曜日

東京新聞社会部 編 新編 あの戦争を伝えたい (岩波現代文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編277日目

 電気自動車メーカーのテスラがビットコインを15億ドル分買ったとの事で、ビットコインが暴騰しています。昨年末私が買った時の価格から、2ヶ月ちょっとで倍になってしまいました。テスラは、ビットコインによる決済も視野に入れているそうです。私の目標は、ビットコインで物の売り買いができる時代まで保有することなので、いくら上がろうが下がろうが、関係ないのです。有事の金という言葉もありますが、ビットコインはこれから先の金になりうる資産とも言われています。あと5年待てば、安定した資産となると思います。もし、興味のある人がいたら、焦らずに、まだ一回は暴落する時が来ますので、それまで待ってから始められると良いと思います。

 さて、今日お勧めする本は、戦後60年目に新聞で連載された、戦争経験者の体験談です。

 本書の特徴としては、戦後60年ということもあり、戦時中はまだ10代の子供であった証言者が多いこと。軍人ではなく、民間人として戦争を経験した人が多い事です。

 本書を通じて感じるのは、あの戦争はどこをどう切り取っても凄まじい悲しみに溢れている歴史であるという事です。沖縄、玉砕、原爆、空襲、特攻、大和、韓国中国への加害、シベリア抑留、BC級戦犯。それぞれ一つ一つ、背負って行くのも、語ることも耐えられない非情な体験談だと思いました。

 そして、それぞれの証言者は、昔は話せなかったが、ようやく話せるようになったとか、話さなければいけないと感じるようになったとか、とにかく傷の深さが凄まじいと感じました。良くぞこれだけの証言を集めてくれたと、編集に関わった方々にも感謝したい気持ちでいっぱいになりました。

 そして、私は本書で原爆、空襲など日本人が被害者となる歴史を学びましたが、それでも中国、韓国へ害をなしたという歴史を重く受け止めて行きたいとあらためて思いました。

 沖縄戦でひめゆり学徒を戦場に引率した仲宗根政善元琉球大教授(1995年没)が1970年の日記に記した「アメリカの憲法には戦争体験の血がにじんでいない。日本の憲法も血のいろが次第にあせつつある。憲法から血の色があせた時、国民は再び戦争に向かうだろう」という言葉は、大切な言葉として、心に刻んでおきたいと思いました。

 

2021年2月8日月曜日

森見 登美彦 新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編276日目

 昨夜の『麒麟がくる』最終回は、やはり話題になっているようですね。私は見逃したのですが、高評価の声が多そうなので、今週中にNHK+で観ようとおもいます。それにしても、ここに至るまでNHKの本能寺の変を盛り上げようとする番組編成は凄かったですね。歴史好きの私としては、最高でした。その中でも、歴代の大河ドラマで演じられた本能寺の変を紹介する番組が良かったです。渡哲也さんや舘ひろしさんなど、強面信長の最後が格好良かったです。同じテーマを様々に演じるドラマの表現としての違いがあって良いですね。

 さて、今日お勧めする本は、明治から昭和にかけての名作短編小説のパロディです。

 本書の魅力は、文学界に燦然と輝く名作を何の躊躇いもなく、自分自身の世界観に押し込みパロディ化しているところです。

 大事なことは、原作の持つ奥行きや味わいは皆無であり、深読みを許さないほど明らかなパロディに仕上がっているところです。そのくせ、著者特有の、阿呆な大学生たちが繰り広げる物語が読書そのものを楽しませてくれる感じが徹底されています。

 「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」の5編の短編小説が題材になっています。

 私が原作を知っているのは「山月記」と「走れメロス」ですが、どちらも大変面白かったです。特に「山月記」は、李徴とは似ても似つかぬ、阿保学生の斎藤秀太郎が主人公ですが、彼の紹介文は「一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生」です。そして、彼が凡人たるを良しとせず、大学にも行かず黙々と自分の小説を著そうと、日々執筆に勤しんでいる。それだけの変人の物語ですが、とても面白い話になっています。

 また「走れメロス」も、友情とはとても言えないような友情を描き出している、非常に楽しい作品です。メロスがセリヌンティウスとの約束を守ろうとせず、京都市内を逃げ回るというのは、想定を超えていますが、本当に面白い小説でした。

もっとも、「山月記」も漢文の「人虎伝」をモデルにしていたのですから、十分ありの手法なのだと思います。原作を知っていても知らなくても楽しめるように、ストーリー展開だけ原作から借りて全く別の物語に仕上がっています。名作の名を借りておきながら、完璧な森見ワールドに仕上がっています。

 青春の馬鹿馬鹿しさを味わえる軽い作品です。ぜひご一読下さい。

2021年2月7日日曜日

楠木 建 ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編275日目

 今日の新潟日報で、新型コロナ対策にかかる財政負担についての記事が掲載されていました。そもそも借金体質である日本にとって、今回の財政出動がどれだけ危険なことか警鐘を鳴らすものです。実際国債の発行額を示すグラフを見ると、とんでもないことになっていることがわかります。すでに我が国はお金を配る余裕などないように見えました。債務不履行にならないよう、コロナ後の財政健全化のための戦略を示してほしいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、各業界で成功している企業の競争戦略について、ストーリーという視点で解説する本です。

 本書の主旨は、成功事例について、パターン化したりモデル化して切り取るより、ストーリーと言った流れを知る方が有意義だよ、って事だと思います。

 多くの示唆に富み、非常に面白い本書ですが、いかんせん話が長いです。著者曰く、本書は最初から順を追って読んで欲しいとのことです。ビジネス書でよく見かける、どこから読んでも良いという構成とは一線を引いています。本書自体が流れを重視した、ストーリー性の強い話で著されていることによるのです。

 さて、肝心のストーリーとしての競争戦略ですが、その基本となる考え方は、競争しようとしない事です。例えば、テレビという市場があったとすると、安いテレビ、画面の綺麗なテレビ、音のいいテレビを作って参入するのは戦略ではないそうです。競争ではなく、テレビには無い何かを付加価値として提供する事が、戦略というものだそうです。

 その戦略は、ポジショニング(SP)、と組織能力(OC)の切り口で説明されています。SPは「種類の違い」、OCは「程度の違い」に着目して競争優位を持とうというタイプの異なる戦略感だそうです。本書の肝とも言うべき、この二つの戦略感を身につけることが、本書を読んで得るべきゴールと言っても過言ではありません。

 本書の話は確かに長いのですが、言葉は平易で大変わかりやすいので、ぜひご一読下さい。

 

2021年2月6日土曜日

三浦 しをん 舟を編む (光文社文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編274日目

 今日の昼間は良く晴れて、雪いじりに最適な1日でした。路肩の雪もだいぶ消すことが出来ました。しかし、雪いじりもそうですが、除雪をあらわす、雪かき、雪ほり、雪のけ、など雪に関する言葉はいろいろありますが、いずれもローカル色が強く方言っぽいですよね。私のよく使う雪のけは下越地方に使う人が多く、上越では使う人はいないようです。逆に下越では雪ほりという人はほとんどいないようです。ちなみに、辞書に載っているメジャーな言葉は雪かきのようです。

 さて、今日お勧めする本は、辞書の編纂というニッチな世界を舞台としたお仕事小説です。

 主人公は、玄武書房という出版社に勤める馬締光也。馬締は、辞書づくりひとすじ三十七年勤めてきた荒木に認められ、辞書編集部に引き抜かれます。馬締は、トンチンカンなところがあるものの、言葉に対する鋭い感覚と律儀さという、辞書編纂のために必要な素養を認められたのです。

 荒木は定年退職し、馬締に新たな辞書作りが託されます。新たな辞書『大渡海』は『広辞苑』や『大辞林』と同程度の規模の、中型国語辞典。名前の由来はひとが言葉を使って思いを伝えることを、舟に乗り海を渡る行為に例え、その舟となる辞書を編むという思いを込めて名付けられたそうです。

 ヒロインの香具矢と奥手の馬締のラブストーリーも十分面白いのですが、これでもかというほどこだわった辞書作りの過程がとにかく面白いのです。私が一番好きなのは、馬締が『大渡海』に使う紙の試作品を手にした時、ぬめり感が無いため作り直しを依頼するシーンです。辞書は言葉だけではなく、ページを捲りやすいようにハードとしても細心の注意を払って作るものだという思いが伝わってきました。

 辞書編集という小難しい作業をテーマにしながら圧倒的な読みやすさで、ぐいぐい物語に引き込まれてしまいました。登場するキャラクターも実に魅力的で、欠点も見当たらず本屋大賞受賞も当然とも言える作品です。ぜひ、ご一読下さい。

2021年2月5日金曜日

池上 彰 , 佐藤 優 新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編273日目

 今年の正月は、窓から降り止まない雪を見て、どうなるものか心配するというルーティンをただ繰り返してばかりでした。先日はテレビの話をしましたが、テレビで唯一信じられるのは天気予報と株価の数字だけだと何かの本で読んだ記憶があります。確かに天気予報では、寒気の南下と気圧配置から、降雪の予報をし、過去のデータや、いつまで続くのかという先行きなど、およそ考えられる連続した情報を伝えてくれる素晴らしいツールだと思います。天気予報をよく見ていればもっと落ち着いた日々を過ごせたのかもしれません。

 さて、今日お勧めする本は、世界紛争の情勢をその根本となる民族や宗教などからわかりやすく解説してくれる本です。

 本書は、池上彰と佐藤優という、智の巨人ともいうべき二人の対談で著された本です。それぞれ、ジャーナリストと元外務省主任分析官と畑は違いますが、共に国際情報のプロですから、情報の補いかたが半端ではありません。

 この二人が語るのは、まず戦争についての基本的歴史のおさらいから始まり、ウクライナなど欧州、次に中東の話題、そして北朝鮮、尖閣諸島、アメリカについてと、章をさいています。過去から現在の流れがわかる様に、かなり突っ込んだところまで話しているのですが、比較的平易な言葉で監修されているため、読みやすいです。

 話題が変わって、第8章では国際情報に限らず、情報ソースは何を使うか、情報の整理はどうするかという話題に移ります。面白いのは、二人とも新聞などオープンソースが主体の情報収集をしている事。そして、大学ノートを基本の記録媒体としているところが面白い。インテリジェンスのプロがどのように情報に触れ取り扱っているかを学べます。

 中東情勢やウクライナ問題など、読み解いていくために必要な宗教や民族についての情報から詳しく語られているところがよかったです。また、破綻国家と言って、国土の実効支配が出来ていない国があるというのは、よく知らないことでした。ガソリン価格など実生活へも国際的な動きがシビアに影響しているのですから、もう少し実感を持って学ぶ必要があるようです。そんな国際情勢通になっていくためにも、もう少しこの手の本を読み込んでいく必要があると感じました。

 本書を通じて、目に見える情報を理解するには、目に見えないところに流れる連続的、根元的な情報に通じる大切さを知ることが出来ました。私はテレビのニュースを窓の外の雪のように見ていますが、インテリジェンスに長けた人たちは、天気図から予想した天気を、答え合わせする様にニュースを見ているのかな?と思いました。

2021年2月4日木曜日

和田 秀樹 テレビの大罪 (新潮新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編272日目

 最近、「Clubhouse」という単語をよく見かけるようになりました。その正体はiPhoneのみで使える音声によるチャットが出来るSNSアプリとの事です。なんとなくですが、音だけのTwitterっていう感じのように思われます。本当にスマホの普及からSNSの広まりと、コミュニケーションの変化には目を見張るものがあります。これはメディアのあり方にも大きく影響しているようです。実際、うちの息子はテレビよりYouTubeを見ている時間が圧倒的に長いし、職場の若手にも家にテレビがない人は割といるようです。

 さて、今日お勧めする本は、視聴者への影響力からテレビの罪悪を訴える本です。

 本書の主旨は、テレビが悪と決めつけるとそれに乗っかる人が多く、予想外の害悪を生み出すから危険だよ。って事だと思います。

 10年以上前に発行された本のため、挙げられている例がちょっと古く感じますが、それでも、テレビの体質は変わっていないことが再確認出来る内容ではないかと思いました。

 本書からテレビの罪は三つあると感じました。一つ目は、これが普通、これが理想など、人の価値観に与える影響が大きい事。二つ目は、正と悪を二元化し、多様な視点を持たず悪をひたすら叩く世論を形成してしまう事。三つ目は、元ヤンキーなど特別な経歴が必要以上に評価され、まともな生き方より極端な生き方に魅力を感じる人を醸成してしまう事。

 コロナ騒ぎでもそうですが、テレビが「マスクをせずに歩いている人がいる」とか「自粛をしないで夜の街に繰り出している人が減らない」など報道する影響で必要以上のバッシングが発生します。

 最近でいえば、河井 案里参議院議員の問題もかなりテレビの影響が大きいニュースですが、あれに煽られて、「河井 案里はけしからん」など思っている人は、要注意です。

 テレビでコロナや河井議員などのニュースを見て、思わず怒りを感じてしまった人は、ぜひ本書をご一読して、まずは落ち着いてください。

2021年2月3日水曜日

大岡 昇平 野火 (角川文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編271日目

 今日は立春。暦の上では春です。例年であれば今日が節分ですが、今年は暦のずれで124年ぶりに2日が節分だそうです。昨日は恵方巻食べた方が多いのではないのでしょうか。もともとは近畿地方の一部で行われていた風習らしいのですが、今は新潟でも節分のアイテムになりました。今年はネット予約など予約販売により、廃棄を減らそうという動きもあるようですが、その効果が気になります。以前見た、夜9時頃になっても売れ残った大量の恵方巻が衝撃的でしたからね。

 さて、今日お勧めする本は、飢餓という観点から戦場を描いた小説です。

 主人公は田村一等兵。舞台は第二次世界大戦中のフィリピン、ルソン島。すでに戦況は悪化し、田村達の部隊はルソン島に上陸する際に迎撃され、組織的な戦闘もないまま、現地の畑を荒らすなど食量確保に明け暮れています。

 そんな中、肺病が悪化して喀血した田村は部隊を追い出され、野戦病院に向かいますが、食料を持っていないためそこでも受け入れてもらえません。どこにも落ち着く先もないまま、田村は同じように部隊を追い出され、病院の近辺に坐り込む、安田や永松と出会います。

 米軍からの攻撃に散り散りに逃げ、彷徨う中で田村は生き残るため、無辜の現地住民を手にかけます。やがて、安田、永松と再開し、米軍に投降するチャンスを伺っていますが、食べ物も無く、田村は安田達から猿の肉と言って勧められた謎の肉を食べて命を繋いでいきます。

 本書では、戦地を彷徨う主人公の思考を通じて、飢餓の極限状態が描かれていますが、残酷で読み進められない程ではなかったです。次々に起こる生死をかけた出来事の中、主人公は哲学的な思索を進め、そこに学ぶことが多いと感じました。

 以下は、印象に残ったところの書き抜きです。

「我々のいわゆる生命感とは、今行うところを無限に繰り返し得る予感にあるのではなかろうか」

「私は自分で手を下すのを怖れながら、他の生物の体を経由すれば、人間の血を摂るのに、罪を感じない自分を変に思った」

「私の左半身は理解した。私はこれまで反省なく、草や木や動物を食べていたが、それらは実は死んだ人間よりも食べてはいけなかったのである」

2021年2月2日火曜日

本川 達雄 ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編270日目

 アメリカでSNSを使っている個人投資家らにより、ゲームストップという銘柄の株価操作が行われたとの事です。それも、ゲームストップという企業ではなく、株の空売りで個人投資家から儲けていたヘッジファンドへの復讐といった意味合いが強いそうです。実際、ヘッジファンドのメルビン・キャピタルには大きなダメージを与えたようですから、個人が企業に勝った相場でした。しかし、今回の株価急騰は実態を伴わないバブルですから、結局最後にバカを見るのは参加した個人投資家というのも残念な事実です。個人的にもこのような喧嘩は他でやってくれって思います。

 さて、今日お勧めする本は、サイズという視点を通して生物を理解しようという、生物学入門書です。

 体の小さな動物はちょこまかしているし、逆に大きな動物はゆっくりしている。体のサイズと時間の関係は古来から調べられていて、その生物における時間は、体重の4分の1乗に比例するそうです。つまり、体重が16倍になると時間は2倍ゆっくり流れるそうです。そして、この4分の1乗則は、生物の時間に関する現象にことごとく当てはまるそうです。

 このように体重の4分の1乗則から始まり、生物の進化は時代が進めば、進むほど大きくなるように設計されているとするコープの法則や、サイズとエネルギー消費量の関係など、サイズに絡めながら、生物学の基本的な理論を説いていきます。

 私は、生物のサイズというわかりやすい切り口から、生物の進化など生物学に惹きつけられるようになる良書だと思います。生物のサイズやデザインはいろいろ必然的に決まっているという著者の言葉に自然の神秘をあらためて感じます。ぜひ、ご一読ください。


2021年2月1日月曜日

田村 秀 暴走する地方自治 (ちくま新書)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編269日目

 新型コロナの緊急事態宣言が出されてから、もうすぐ一か月が経とうとしている中、解除に向けての綱引きが続いているようです。現在の状況は実行再生産数は0.77と感染拡大が収まって来ているように見えます。緊急事態宣言の効果検証も行われているそうです。マスコミ受けを狙った知事のパフォーマンスになりがちですが、しっかり効果を検証して、第四波、第五波に備えていって欲しいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、研究者から見た地方行政と改革派首長の政策を批判する本です。

 本書の主旨は、住民に身近な地方自治は地道な政策が大事、改革派首長がマスコミに取り上げられて、大衆受けする政治はやがて財政的な支えを失い国を滅ぼすことになるよって事だと思います。

 著者は 新潟大学で教授を務めていてこともあり、新潟県に縁のある行政学者です。

 本書は、10年前に書かれている事から、既に廃案になった大阪都構想と、そこから派生する、中京都、新潟州構想などを痛烈に批判しています。各地で改革派首長が求められているのは、国政の行き詰まり感が根底にあるとの事。そして、改革派首長の共通項として、既存の抵抗勢力を明確にし、危機感を煽ってマスコミ受け良く取り上げられる事を指摘する。このような大衆受けする政治が地方と国を滅ぼすと警鐘を鳴らしています。

 少し読みづらいところもありましたが、我が意を得たりと思う箇所が多いと感じました。特に「不易流行」(変えない事も、変える事も同じ様に大事)という言葉は全く同感です。本書の指摘の通り、本来、改革は手段であり目的では無いはずだと思います。目的とすべきはより良い住民サービスのはずなのですが、ポピュリズムの中で、最近は改革が目的化していると思います。

 地域主権を唱える首長と、それを支持する有権者の期待する事は、必ずしも一致していないかもしれないところを、丁寧に説明してくれる良書だと思います。ぜひご一読ください。



1月に読んだ本のまとめ

1月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2452
ナイス数:177

海馬の尻尾 (光文社文庫)海馬の尻尾 (光文社文庫)感想
◯アル中でサイコパスのヤクザ、及川頼也が主人公のハードボイルド小説。及川は、ヤクザ同士の抗争から身を隠すため、8週間に渡るアル中の治療のプログラムに参加する。しかし、その施設は精神に病気を持つ者たちを収容する精神病院だった。主人公が救いようの無いヤクザであるので、読んでいてあまり気分の良い作品では無いが、酒が抜け、梨帆と交流してから及川がだんだん親しみやすいキャラクターに変わっていった。
読了日:01月07日 著者:荻原 浩
弟の戦争弟の戦争感想
☆☆舞台はイギリス、主人公のトムは、3つ下の弟アンディに頼れるやつという意味のフィギスというあだ名を付けています。フィギスは感受性と好奇心が強く、新聞にあった飢えに苦しむエチオピアの子供の写真にのめり込み、食べ物に手をつけなくなるなど、時々可哀想な他者とシンクロすることがあります。12歳のフィギスは、中東で湾岸戦争が始まると、イラク軍の少年兵ラティーフとシンクロしてしまいます。トムは、圧倒的な兵力のアメリカに苦戦するラティーフの姿をフィギスを通じ見て、テレビに映ることの無い戦争の現実を知ることになります。
読了日:01月11日 著者:ロバート ウェストール
流れ星が消えないうちに (新潮文庫)流れ星が消えないうちに (新潮文庫)感想
☆大切な人が逝き、残された者たちの喪失感について深く向き合う小説です。巧と奈緒子、加地くんの3人の物語。巧と加地君は親友、奈緒子と加地君は恋人でしたが、突然の事故で二人は加地くんを失います。加地君の死後1年経って、巧と奈緒子は付き合い始め、半年が過ぎた今を現在として物語は進みます。親友から彼女を奪った感覚が抜けない巧と、目の前の恋人ではなく加地君との思い出が抜けきれない奈緒子。加地君の死から動けなくなってしまった二人が、今はいない加地君と3人で手を繋いで、再び歩き始めるための物語です。
読了日:01月14日 著者:橋本 紡
期待値を超える 僕が失敗しながら学んできた仕事の方法 (光文社新書)期待値を超える 僕が失敗しながら学んできた仕事の方法 (光文社新書)感想
◯ビジネスの基本として、リアルな仕事の現場で必要とされるコミュニケーションを説く本です。ビジネスでは、「認められる」「評価される」ことより「相手が喜ぶ」「相手の役に立つ」「相手を感動させる」ことが大事とのこと。まず、等身大の自分をどう見せるかセルフブランディングして、相手からかけがえのないパートナーとして認めてもらえるよう、相手の困りごとを解決し、未来のために新しい提案をする存在になる事が大事だそうです。
読了日:01月21日 著者:松浦弥太郎
夢を売る男夢を売る男感想
☆ 慢性的な不況に陥っている出版業界を舞台として、それでも出版に夢をみる人々を描いた連作短編小説です。主人公は弱小出版社丸栄社の編集部長牛河原勘治。彼の顧客は読者ではなく、自分の書いた本を書店に並べたいと自尊心や虚栄心に取り憑かれた著者達です。丸栄社は本の著者に出版費用を負担させて本を出版し、売れるか売れないかに関わらず出版すれば儲かるという商法を展開しています。この作品でどれだけ出版業界が大変か、そして本を書きたい人間がいかに出版業界の苦労を知らずして夢を見てしまうのか思い知らされました。  
読了日:01月23日 著者:百田 尚樹
現場主義の人材育成法 (ちくま新書 (538))現場主義の人材育成法 (ちくま新書 (538))感想
☆ 一橋大学商学部で地域産業を教える著者は、中国や地方都市の工場など、先端の現場で夏合宿を行い、知識だけでなく先輩たちの持つ熱気や情熱を学生達に感じさせるように指導をしています。本書の主旨は、指導者が先端の現場に身を置き、相手に世の中の先端を実感させれば、相手にやる気が起きて育って行くとの事。著者の教え子達が中国の生産業の集積地で激アツの深圳テクノセンターにインターン留学し、見違えるほど成長した例があげられています。人を育てるのはコミュニケーションが大事である事を改めて認識することが出来ました。
読了日:01月24日 著者:関 満博
調べる技術 書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意 (SB新書)調べる技術 書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意 (SB新書)感想
◎情報過多な時代では、インプットする情報をきちんと選ぶよう気をつけましょうと言う本です。著者は、情報は、量は多いが本当に自分のためになっていますかと問います。そして、知的生産の技法を磨き、コミュニケーション能力を高めることで、読者が人生そのものの充実度を高めていくと言うのが本書の目的だそうです。本書でなるほどと思ったことは、教養力アップの方法として、高校の教科書を学び直すこと。良質な情報に触れるためには有料のサービスも活用すること。スマホの独学アプリも役に立つこと。
読了日:01月26日 著者:佐藤 優
僕の死に方 エンディングダイアリー500日僕の死に方 エンディングダイアリー500日感想
☆平成24年10月に急逝した流通ジャーナリスト金子哲雄さんのエンディングダイアリーです。本書最大の衝撃は、肺カルチノイドという病気に罹り、余命宣告を受けた著者が、周囲にそれを隠して最後まで仕事を続けると決めて、それをやり遂げた事です。自分の死んだ後のお墓や葬儀を始めとする様々な準備を自ら整えて旅立っていった姿が胸を打ちます。そして、病気のことを伏せていた周囲に申し訳ないと思う人の良さや、自分の死の間際まで奥さんの手を握り、奥さんの事を守ると言い続けた愛情には涙が止まりません。
読了日:01月27日 著者:金子 哲雄
ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書)ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書)感想
◎本書の主旨は、記者クラブで各社横並び、取材対象にベッタリ癒着している日本のマスコミはジャーナリズムではない、って事だと思います。ニューヨークタイムスの記者の後、フリーランスとなった著者は、日本よりも外国の目線で、記者クラブについて辛辣な批評を書き連ねています。それらからは、日本のジャーナリズムは、ジャーナリズムとはいえない代物のようです。今日本のマスコミが海外のマスコミからどう見られているか、いろいろ参考になる本だと思います。
読了日:01月30日 著者:上杉 隆

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