2021年2月8日月曜日

森見 登美彦 新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編276日目

 昨夜の『麒麟がくる』最終回は、やはり話題になっているようですね。私は見逃したのですが、高評価の声が多そうなので、今週中にNHK+で観ようとおもいます。それにしても、ここに至るまでNHKの本能寺の変を盛り上げようとする番組編成は凄かったですね。歴史好きの私としては、最高でした。その中でも、歴代の大河ドラマで演じられた本能寺の変を紹介する番組が良かったです。渡哲也さんや舘ひろしさんなど、強面信長の最後が格好良かったです。同じテーマを様々に演じるドラマの表現としての違いがあって良いですね。

 さて、今日お勧めする本は、明治から昭和にかけての名作短編小説のパロディです。

 本書の魅力は、文学界に燦然と輝く名作を何の躊躇いもなく、自分自身の世界観に押し込みパロディ化しているところです。

 大事なことは、原作の持つ奥行きや味わいは皆無であり、深読みを許さないほど明らかなパロディに仕上がっているところです。そのくせ、著者特有の、阿呆な大学生たちが繰り広げる物語が読書そのものを楽しませてくれる感じが徹底されています。

 「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」の5編の短編小説が題材になっています。

 私が原作を知っているのは「山月記」と「走れメロス」ですが、どちらも大変面白かったです。特に「山月記」は、李徴とは似ても似つかぬ、阿保学生の斎藤秀太郎が主人公ですが、彼の紹介文は「一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生」です。そして、彼が凡人たるを良しとせず、大学にも行かず黙々と自分の小説を著そうと、日々執筆に勤しんでいる。それだけの変人の物語ですが、とても面白い話になっています。

 また「走れメロス」も、友情とはとても言えないような友情を描き出している、非常に楽しい作品です。メロスがセリヌンティウスとの約束を守ろうとせず、京都市内を逃げ回るというのは、想定を超えていますが、本当に面白い小説でした。

もっとも、「山月記」も漢文の「人虎伝」をモデルにしていたのですから、十分ありの手法なのだと思います。原作を知っていても知らなくても楽しめるように、ストーリー展開だけ原作から借りて全く別の物語に仕上がっています。名作の名を借りておきながら、完璧な森見ワールドに仕上がっています。

 青春の馬鹿馬鹿しさを味わえる軽い作品です。ぜひご一読下さい。

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