2021年2月21日日曜日

石川 達三 生きている兵隊 (中公文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編289日目

 全豪オープンでは、大坂なおみ選手が見事2年ぶり2度目の優勝を遂げました。私もテレビで観戦していたのですが、素晴らしい試合でした。皆さんご存知のとおり、大坂選手は、お父さんがアメリカ人、お母さんが日本人のハーフで、全米オープンで初優勝した時は、両方の国籍を持っていたのですが、一昨年日本国籍を選択し、アメリカ国籍を放棄した日本人です。私は単純に、日本人が世界で活躍するところを見ることは嬉しいので、彼女の活躍は嬉しいです。そして、彼女が選択した日本国籍についても誇りに思うし、誇らしい国であり続けたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、そんな日本がやらかした最大の失敗である日中戦争のルポルタージュです。

 本書は、日中戦争の最中、昭和13年に発表され、即日発売禁止となったことで話題の作品です。正直言って、日本兵による非人道的な行いが生々しく描写されており、読み通すのも無理という人がいてもおかしくない作品です。

 本書の主な登場人物は、先生あがりの小隊長倉田少尉、ロマンチスト代表平尾一等兵、医大卒の研究者近藤一等兵、戦友に対する愛情が深いが敵を人と思うことなく迷いなく殺せる生まれながらの兵隊笠原伍長、スコップで人を殴り殺す従軍僧片山玄澄。いずれも、平時の日本であれば犯さないであろう殺戮に手を染めます。

 本書では、戦場の民間人が、如何に無惨に殺されていくかを生々しく描写していきます。私を含め、やや右寄りな人が言う、日本があの戦争に踏み切るのは仕方がなかった、兵隊さんは祖国のために命を犠牲にして戦った。なんて言う綺麗事は、全く説得力を持たない世界です。

 兵隊は、ただ命令に従って戦い、戦いの合間には、その土地のものを奪い、人を殺すろくでもない存在です。昔プラトーンと言う映画がヒットし、ベトナムでのアメリカ兵の非情さを伝えることになりました。しかし、本書で語られる中国での戦争は、比較にならない非人道的な行いがあったことを示しています。

 本書で一番怖いのは、兵隊たちの悪虐非道な行いが、日本人に良くある悪ノリで行われているように思えるのです。つまり、渋谷のスクランブル交差点などで悪ノリして大騒ぎしている若者たちは、倉田、平尾、近藤のように平気で悪虐非道なことができると言うことです。私も、きっとやらかす悪いノリです。

 戦争の残虐さを知るためには、これぐらいのショックに耐えなければいけないのかもしれません。ぜひご一読下さい。

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