2021年3月9日火曜日

伊坂 幸太郎 仙台ぐらし (集英社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト61日

 この時期になるとどうしてもテレビをはじめとして、あらゆるメディアが大震災を振り返ります。2011年の災害から早くも10年が経とうとしています。あの大震災で得た教訓として、私の仕事に関連した事で言えば、土木施設は住民を全ての災害から絶対安全に守る施設ではないと、キチンと説明できるようになった事だと思っています。想定している災害からはちゃんと守ることはできますが、それを超えたら、残念ながら守ることはできません。この当たり前の話を受け入れてもらえるようになったと感じています。

 さて、今日お勧めする本は、仙台在住の人気作家のエッセイです。

 著者は、エッセイは苦手と自覚していて、作り話のようなエッセイで良ければと引き受けたものの、結局、作り話でエッセイを綴るのは難しく、結局実話ベースの通常のエッセイを書くことになり、苦労したそうです。

 著者は、半年に1話、5年10話を終え、単行本製作の過程で、あの東北大震災に見舞われます。その後、被災後のエッセイや、書き下ろしの小説を加えて、なんとか発行に漕ぎ着けたのが本書になります。

 本書を災害関連本として位置付けて欲しくないと、著者は考えていますが、私の中では圧倒的に震災直後の状況を伝える素晴らしい作品だと思います。それは、被災者の無力感や、戸惑いをこれほどストレートに伝えてくれるメディアは多分ないと思うからです。写真や動画は、外見を伝える情報量は多いと思うのですが、文章は書いた人の心情がストレートに伝わってくるので、大震災被災者の一人である著者の無力感や、戸惑いを追体験できるのは、とても大切なことだと思います。

 本書の中で、一番印象的なのは、くどいほど語られる著者の小心者ぶりが、著者の作品の魅力になっていることに気づけたことです。また、完全復活できる前に書かれたであろう、書き下ろしの短篇小説にも、伊坂節が感じられてよかったです。是非ご一読ください。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿