2021年3月24日水曜日

福澤 徹三 東京難民(上下巻) (光文社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト46日

 今年は桜が早いようですが、大学受験はおおむね終わり、桜が咲く人散る人、それぞれの一年が始まります。私自身は現役時代は桜が散り、今頃は予備校の費用を少しでも抑えようと、必死に特待生試験を受けていたように覚えています。ただ、その頃は、予備校、大学の学費は出してもらって当たり前と考えていた、親不孝なガキンチョだったと、受験生を持つ親になり日々実感しています。

 さて、今日お勧めする本は、おぼっちゃま大学生がフリーターにまで転落していく小説です。

 主人公は時枝修、漢字で名前を書けば受かるレベルの東京の大学に、北九州の両親の元を離れたいと言う理由で進学し、挙げ句単位を落としまくっています。夏休み明けに大学から呼び出しを受け、そこで学費が未納のため大学を除籍になってしまった事を告げられます。

 大学生でなくなってしまったため、就職しようと考えますが、面接を受けようにもスーツ一着すら持っておらず、就職する実感も湧きません。結局、就職よりお金を稼ぐことを優先して、バイトを探すことにします。そのバイトもうまく行かず、持ち金もどんどん減っていきます。その後、家を追われ、一つ一つ社会とのつながりを失っていきます。

 本書の魅力は、今の自分が当たり前に手にしているものは、一つ選択を誤るとあっという間になくなってしまい、それを取り戻すのは垂直の崖を登るように困難な事であることに気が付かされるところです。主人公修の転落していく様は、本当読んでいて辛くなるばかりの作品です。

 社会をドロップアウトしていく擬似体験を味わう事も、何かの役に立つかもしれません。是非ご一読ください。

 


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