2021年5月2日日曜日

大崎 善生 聖の青春 (講談社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト7日

 残り一週間は一年前に『7日間ブックカバーチャレンジ』でブックカバーだけ紹介していた本をあらためて取り上げていきたいと思います。

 日曜日は囲碁のNHK杯をよく観るのですが、今年の4月から画面の上にAIによる優勢判定が表示されるようになりました。多くの対局では、劣勢にある側が、勝負手という一か八かのギャンブルに出て、そこから、優勢判定が一手ごとに行ったり来たりします。先週の対局では、圧倒的に優勢な状況の対局者が、KOを狙いに行ったところ仕留め損ね、負けてしまったのです。この時も優勢判定が、95%から、たったの一手で逆に5%まで激減して、一手一手のシビアさが伝わってきて面白かったです。日曜日の囲碁の時間はテレビ前から離れられません。

 さて、今日お勧めする本は、29歳で夭逝した天才将棋棋士村山聖の生涯を描いた感動のノンフィクションです。

 とにかく名作なので色々な気付きを得られる作品ですが、今回は村山聖が追いかけた夢について、書いていきたいと思います。

 本書の主人公である村山聖は小学校に入学する前から腎ネフローゼという難病にかかり、入院生活を繰り返し通常の小学校にも上がれず、重病を抱えた子供達が療養する施設で過ごします。その頃から覚えた将棋にのめり込み、本で勉強し将棋の腕を上げていきます。

 そんな子供の頃から、病気と闘い死と隣り合う生活を支えたのは、名人になりたいという、強い想いでした。その夢を抱いた時から、村山聖は名人になるために努力を重ね、唯一そのことだけに集中して生きていきます。ネフローゼを悪化させないためには、安静にするしかないのですが、将棋のためにじっと安静にして病気を飼い慣らそうとしていたのです。

 圧巻だったのは、プロとなり名人へあと一歩というところまで来ていた村山聖が、癌を発症しその闘病生活の中でも名人になる夢を捨てていなかったことです。うまく頭が回らず将棋に支障が出ると言って、鎮痛剤や麻酔などの投与を頑なに拒み、痛みに歯を食いしばって耐えていたそうです。

 癌に病みながら名人になるという夢は明らかに不可能に見えますが、村山聖にとっては自分を生かすための大事な信念だったように思いました。そして夢は叶えるのが大事なのではなく、今この瞬間を生きるために必要なのだということに気付くことができました。

 村山聖という壮絶な人生に触れることは、かなり精神的にキツいのですが、それだけ強いエネルギーをもらうことができると思います。是非ご一読ください。

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