2021年4月26日月曜日

西村 賢太 苦役列車 (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト13日

 YouTubeなのか、本なのか、テレビなのか出典がわからないのですが、幸せは得る物ではなく、気づく物であると言う言葉を思い出しました。師匠みたいな人に、幸せになれる方法であったか何かしら、幸せに関する質問をするわけです。すると、その師匠が逆に聞き返します。今幸せかと。幸せになろうと努力していると答える質問者に、その師匠が伝えるのが、「幸せは得る物ではなく、気づく物である、今この瞬間にある微かな幸せに気づくことが出来なくて幸せを得る事は出来ない」と。どこの出典か忘れてしまいましたし、もしかしたら、色々な話をミックスしている気がしますが、そんなことを思い出しました。

 さて、今日お勧めする本は、最低な人間の最低な生き方を文章にすると、すごく文学的になることを実感する私小説です。

 主人公は北町貫太、中卒で15歳の時から日雇い労働者として日銭を稼いで過ごしています。その働き方も、バイト先まで行く電車賃を残すまでお金を使い切り、仕方なく仕事に行くような生活ぶりです。

 そんな貫太も、バイト先で出会った同い年の専門学校生である、日下部と出会い、社会に出てはじめての友達ができます。日下部と過ごす、若者らしい友達付き合いの日々も長くは続かず、生来の怠け癖などでさらに惨めな生活に落ちていくのです。

 本書の魅力はなんといっても文章表現の豊かさです。怠惰な自分を持て余し、自尊心だけは立派なため、妬み嫉み100%で世の中に相対する貫太の心情も、著者の文章力で表現すると、文学的な主人公の日常というように感じられて、そのまんま哲学的存在に化けることができるようです。とはいえ、あまりにも粗野で下品な貫太の立ち居振る舞いは、普通の人が生きていく参考にはなりそうにありません。

 初めて読んだ時の私の感想は、「骨太な文体で、破天荒な青春時代を描いた快作。文章が特徴的なので、最初のページからどっぷり作品の世界に引き込まれる。  私小説ならではの赤裸々な自己分析とその告白は、読んでいる側も自分の暗黒面をみせつけられるようで、苦味のあるおもしろさをかんじる」と言うものでした。

 ダメ人間というものに向き合う貴重な経験ができます。是非ご一読ください。


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