2021年4月22日木曜日

姫野 カオルコ リアル・シンデレラ (光文社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト17日

 ニュースで、コロナの第四波について、重症患者の増加により医療体制が逼迫している危険性を伝え、国民一人一人の協力による感染拡大防止を訴えていました。私は、これを見て、戦争中の大本営発表を伝えるマスコミを見ているように感じました。マスコミは、国民に負担を求める政府のメッセージを伝えてばかりいてはいけないと思います。マスコミが伝えるべきは、政府がどのように対処しているかという、権力のチェックだと思うのです。例えば、国はこの先、さらなる感染拡大など、最悪のシナリオを想定して準備しているのか?という観点から取材して伝えるべきです。今マスコミから聞こえてくるのは、「欲しがりません勝つまでは」という軍国主義的なメッセージです。改善を願います。

 さて、今日お勧めする本は、本当に心の美しい人がいたら、周りの人からどう見えるのかという実験的な小説です。

 本書の主人公は倉島泉という1950年生まれの女性です。物語は、編集者が倉島泉(センちゃん)の人生を元とした、長編ノンフィクションを書いていくという形で綴られていきます。

 センちゃんは長野の諏訪に立つ料理屋兼旅館の娘として生まれ、お父さん、お母さん、妹の深芳の4人家族です。妹の深芳は体が弱く、その病弱な事から両親に過保護に育てられ、長女のセンちゃんは幼い頃から妹の世話ばかりを押し付けられます。母親が少し癖のある人で、自分に似て美形な深芳は可愛がるのですが、センちゃんを疎ましがります。

 昔から、センちゃんは誰かのお下がりなどをあてがわれろくに物を買ってもらうことなく過ごしていますが、深芳は服でもなんでも買ってもらったり、差別されて育ちます。センちゃんは自宅の居間でちゃぶ台を上げ下げして寝起きしていますが、深芳は一人部屋を与えられています。大きくなってくると、器量良しで、成績もいい深芳と、愛想もなく、成績はそこそこのセンちゃんの扱いは周りを含めてどんどん差が広がってきます。

 しかし、どんなに差別的な扱いを受けてもセンちゃんは、常に謙虚で努力家で前向きです。中でもセンちゃんの秘密基地の話が秀逸です。センちゃんは深芳が買ってもらったオルガンの箱を与えられ、自分の秘密基地とします。そこには、深芳の書いたお団子の絵や、様々な食べ物の写真が貼ってあり、泣きそうに辛い時はそこで過ごして、涙が止まるまで過ごすのだそうです。

 それでも、自分の周りの人の幸せを自分ごとに捉えられるセンちゃんは、決して不幸では無かったと描かれています。

 幸せの本質を考えさせられる作品です。是非ご一読ください。

 

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