2021年4月12日月曜日

奥田 英朗 オリンピックの身代金 上下巻 (講談社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト27日

 今朝のゴルフ中継には痺れました。なんと、松山英樹さんが日本人初のマスターズ優勝を決めたのです。先日の競泳の池江璃花子さんの日本選手権4冠も素晴らしかったし、アルビレックス新潟のリーグ戦7戦負けなしの好調なのもやっぱり良い。私は最近のスポーツニュースから、元気を貰いっぱなしです。やはり、コロナに疲れた世界中の人を元気にするため、無理をしてでも東京オリンピックは行うべきだと思います。

 
 今日お勧めする本は、前回の東京オリンピックの頃の時代を切り取ったミステリーです。

 本書では、昭和の高度経済成長期の暮らしぶりを作品の中で丁寧に描いていますが、その中で際立つのは、貧富の差であり、その残酷なまでの格差が本書の魅力だと思います。私は最初、本書は単なるミステリーかと思ったのですが、この作品は『蟹工船』みたいなプロレタリア文学だったと思いました。

 昭和39年の東京オリンピックに沸く東京では電気もロクに通じていない秋田からの出稼ぎ人夫が身を粉にして働いています。そんな中、主人公である秋田出身のエリート東大生島崎国男は、出稼ぎ先で死んだ兄の影響もあり、出稼ぎ人夫の労働に身を投じ、約束された将来からしだいに離れていきます。

 出稼ぎ先で死んだ同僚の骨を引き取りに来た、同僚の妻と、国男のやり取りが印象的です。書抜、妻「なんて言うが、東京は、祝福を独り占めしでいるようなとごろがありますねえ」、国男「東京だけが富と繁栄を享受するなんて、断じて許されないことです。…略…」

 下巻にに進み、爆弾魔に身を落とした島崎国男には、凶悪さというより、むしろ透明な純粋さを感じます。そんな国男と、裏街道の住人村田の、親子ほどの年の差の凸凹コンビが印象的でした。

 そのやりとりの一編。日本の発展に感心する村田に国男「それでも田舎は貧しいままです。富は東京に集中しています。利益を中央に吸い上げるための仕組みが、着々と出来ているということなんじゃないでしょうか」村田「おめはすぐにそう言うけど、東京がながったら、日本人は意気消沈してしまうべ。今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのとちがうか。横に積むのはもう少し先だ」

 オリンピックに協力することが、日本人として当たり前だった時代に、東大エリートから底辺に身を落とした男の運命に、強く心を動かされました。是非ご一読ください。

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