2021年1月22日金曜日

百田 尚樹 夢を売る男 (幻冬舎文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編259日目

 ビットコインなど、暗号資産市場では、バイデン大統領就任の影響が早くも出ているようです。それというのも、次期財務長官に指名されたイエレン氏が、暗号資産がテロリスト等の資金の温床となる危険性があり、規制をかける意向を示したらしいのです。ビットコインは、20%を超えて暴落しています。まあ、私のように、長期的に10倍以上に上がると夢を見ている人にとっては、安くなって買い足すのに助かるって思っている人が多いのでしょうが。

 さて、今日お勧めする本は、慢性的な不況に陥っている出版業界を舞台として、それでも出版に夢をみる人々を描いた連作短編小説です。

 主人公は弱小出版社丸栄社の編集部長牛河原勘治。彼の顧客は良い本の出版を待つ読者ではなく、自分の書いた本を書店に並べたいと自尊心や虚栄心に取り憑かれた著者達です。

 丸栄社は本の著者に出版費用を負担させる、ジョイントプレスという方法で本を出版し、売れるか売れないかに関わらず出版すれば儲かるという商法を展開しています。

 その商法をうまくつかい、敏腕編集部長である牛河原は次々と癖のある著作者達を手玉にとり、一冊あたり数百万円という出版契約を次々に取っていきます。

 ある意味詐欺とも言える商法ですが、牛河原は本を出したい人間の夢を叶える仕事であると、自画自賛しますし、実際にそれに助けられる人がいると本書では描かれています。その反面、牛河原が丸栄社の顧客である著作者たちに聞かせられない本音を部下の荒木に諭すのですが、その一言一言が出版業界への批判であり提言となっており、どれもこれもなるほどと腑に落ちる言葉ばかりです。

 この作品の中でどれだけ出版業界が大変な思いをしているのか、そして本を書いてみたい人間がいかに出版業界の苦労を知らずして夢を見てしまうのか思い知らされます。

 自分の書いた本を世に送り出したいというのは、かなり普遍的な欲望なのかもしれません。

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