2021年1月17日日曜日

北条民雄 定本 北条民雄全集〈上〉 (創元ライブラリ)

 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編254日目


 昨日の新聞からですが、旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは憲法違反として、札幌市の小島喜久夫さんが国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、旧優生保護法下の不妊手術は憲法違反だということは認められたけど、訴えたのが遅いから訴えそのものは棄却されたとの事です。小島さんは精神疾患という理由で不妊手術されてしまいましたが、ハンセン病の患者もこの法律のもと不妊手術されたという悪法です。ただし、旧優生保護法制定の経緯も興味深く、この法律そのものは、ある立場の人を守るため議員立法で成立した法律とのことです。誰かを守るものが、誰かを傷つけるという、簡単な正悪では求められない一つのテーマだと思います。


 さて、今日お勧めする本は、訳あり天才作家による、魂の叫びというにふさわしい小説集です。


 著者の名は北条民雄。ハンセン病を患い、ハンセン病の療養所から川端康成に師事し、作品を発表した前代未聞の小説家です。ハンセン病がいかに恐ろしい病気かは、本書の作品群の一篇でも読めば伝わります。


 人間ではなく生命でしかない自分を初めて認めることとなる事を伝える作品が代表作「いのちの初夜」です。著者は、ハンセン病患者は人間ではなく、ただの生命でしかないと言います。どういうことかというと、人間としての存在を否定され、日々ただ生命を永らえていくだけの虚無な存在であるということです。こんなこと考えたことある人っているのでしょうか?人が生きながらにして人をやめざるを得ないという、想像を絶する世界を伝えてくれる唯一無二の作品です。


 他にも、ハンセン病である著者が切り取る命の描写はほかに見ることのできない峻烈さをもっています。特に「吹雪の産声」を強くお勧めします。死を目前にしたハンセン病患者が療養所で産まれる子供を思い、それまで自分自身が生きていくだけで精一杯だったところに、人が産まれいくという事実から、世の中や歴史そのものの存在に気がつくのです。そこでは、自分たちとは無縁な生命力そのものを授かる患者たちの奇妙な喜びが表現されています。


もっと、もっと、知られてほしい作家です。名作を超えています。



定本北条民雄全集 上/北條民雄/川端康成/川端香男里【1000円以上送料無料】

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