2021年7月5日月曜日

ゴールデンボーイも凄く面白い:ユダヤ人迫害に対する歪んだ好奇心


 前回も紹介しました、本書ですが、表題作「ゴールデンボーイ」と、映画「ショーシャンクの空に」の原作の「刑務所のリタ・ヘイワース」の2篇から成ります。それぞれの長さはかなり違いがあり、方や180ページ、表題作はその倍の360ページです。十分長篇といってもいい長さの表題作をようやく読み終わったのですが、これがとても面白い作品でした。前回「刑務所のリタ・ヘイワース」について触れたので、今回は表題作「ゴールデンボーイ」を紹介していきます。

 本作は、ナチスドイツのホロコーストが結びつけた、老人と少年がお互いその歴史的犯罪の悪影響を受けて、二人とも取り返しのつかないところまで壊れていってしまうというお話です。

 主人公のトッドは、成績優秀、スポーツ万能、両親にも恵まれ、何不自由のない生活を送っています。しかし、トッドはナチスによるユダヤ人への残虐な行為に興味を持ち、マニアックにハマっていきます。そんな中、自分の近くに、もとナチスの戦犯クルト・ドゥサンダーが住んで居ることを突き止めます。ドゥサンダーは国際的に指名手配された戦犯ですから、本来であれば、警察に通報するべきところです。しかし、トッドはそうはせずに、歪んだ好奇心を満たすため、ナチスの悪虐非道な行為について、話を聞き出そうと、ドゥサンダーに近づいていくのです。そうして、将来有望な少年がどうなっていくのかというお話です。

 私も、ユダヤ人に対する迫害については、様々な文献を読んだり、映像を見たりしていますから、好奇心があることは否定できません。しかし、トッドは、それを上回る好奇心と行動力で普通の人なら超えない領域に踏み込んでいってしまうのです。この、好奇心で済ますことのできる境界線を自分は超えているのかいないのか、一歩間違えたら自分もトッドみたいになってしまうのではないか?と言う不安を掻き立てられ、読み進める事が怖く成ります。

 将来を期待される優秀な若者が、悪霊に取り憑かれるように変化していく様子は、漫画「デスノート」の夜神月に通じるように感じました。

 「ショーシャンクの空に」の原作を読むために買った本書ですが、タイトル作が面白くて本当にいい買い物をしたと思いましたよ。皆さんも是非、ご一読下さい。





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