2021年11月1日月曜日

貧困に向かい合わされる壮絶な物語:護られなかった者たちへ [ 中山 七里 ]

 心の震える読書体験をしましたよ。中山七里さんによる『護られなかった者たちへ』という小説です。先月から上映されている同名映画の原作だそうです。

 震災後間もない仙台市と塩竈市が舞台です。非の打ち所がない善人として知られていた福祉事務所職員が殺される事件が起こります。その事件の謎を笘篠と蓮田という二人の刑事が探っていく中で、一般には知られることのない、福祉事務所の仕事の様子や、生活保護制度の実情が知らされていきます。

 感想としては、貧困について、福祉政策について深く考えさせられる硬派な作品だと思いました。それだけに、ミステリーというジャンルに拘ったが故の、ストーリー展開に不満を感じました。若干不自然で、蛇足に思えたのです。

 しかし、貧困についての描写と、人間ドラマの切なさが秀逸です。特に、物語の中盤で語られる、老人、母子家庭、前科者という、社会的に立場の弱い3人が肩を寄せ合い、築いた貧しくても暖かい擬似家族が物語全体の色合いを変えていきます。そんな束の間の幸せが少しずつ壊れていく描写が読んでいて辛かったです。

 よもや、この物語のような悲劇が現実に起きているとは考えたくはありませんが、ネット上で有名なひろゆき氏がYouTubeで気軽に生活保護申請を語る様子が不快に思えてならないようになりました。

 まだ、映画もやっているようなので、読書が面倒くさい方は、映画『護られなかった者たちへ』をぜひご覧になってください。





0 件のコメント:

コメントを投稿