2021年1月29日金曜日

吉野 源三郎 君たちはどう生きるか (岩波文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編266日目

 新聞によると、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた関連法案の修正で、入院を拒否する人への刑事罰の導入を削除する事になったそうです。罰金などの行政罰は残るそうですから、厳しい法律になることはかわりませんが、まずは良いことだと思います。どこかの知事が罰則がないからダメだ!と声を上げたらハイハイと言って刑事罰をつけるなんてことは、まさに衆愚政治そのものですから、そんな言葉に振り回されず、しっかり自分の考えを持つ事が大事なのだと思います。

 さて、今日お勧めする本は、戦前に出版され最近リバイバルで大ブームになった倫理をテーマとした児童文学です。

 主要な登場人物はコペルくんと、そのあだ名をつけた叔父さんです。コペルくんのあだ名の由来は、コペルくんが銀座のデパートの屋上から下界を眺め、人間は分子のようなものではないかと思いついたことを讃え、天動説が当たり前の時代に地動説を唱えたコペルニクスにあやかりつけたものです。物語は、コペルくんが日常で気付いた事や考えを叔父さんとの交換日記のようにして、倫理的に深めていくものです。

 ハッキリ言って、コペルくんはお金持ちのおぼっちゃまですから、何か上から目線で嫌いという読者もいるそうです。実際、先の人間は分子ではないかと言う思いつきも、銀座のデパートの屋上から下の人を見下ろしての言葉ですから、好き嫌いの分かれるところでしょう。しかし、学校でいじめられている浦川君との、関わり方や友情からは、コペルくんは素直な良い子としか思えません。

 浦川くんの家は豆腐屋を営んでいます。借金の返済に駆けずり回っているお父さんの代わりに、幼い兄弟の面倒を見ながらお店を開かなくてはいけなくなり、学校に行く事ができなくなります。コペルくんは、そんな浦川くんの生活を見て、尊敬の念をもちいたく感動して、勉強を教えるなど浦川くんの力になろうとします。これを聞いた叔父さんは、コペルくんが自分を浦川君より一段高いところに置いているような、思い上がった風が少しもしない事に感心し、貧しい人たちの自尊心を傷つけることのないよう、慎みを忘れないように諭します。

 本書は日中戦争開戦の年に発表となった作品なので、現代の倫理とはかけ離れている点もあるように思いますが、それでも学ぶべき多くの気づきを得ることができる思います。ぜひご一読ください。


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