2021年4月2日金曜日

さだ まさし アントキノイノチ (幻冬舎文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト37日

 また、特急いなほで眠りこけて村上まで乗り過ごしてしまった。迎えに来てくれた母親と車中で思い出話をした。亡くなった父親の車で、秋田から帰りに国道7号を走っていた時の話だ。随分前に亡くなっているが、今でも母親とはお互い知らない父親の思い出話を分けっこしている。つくづく、話題の絶えない父親に感謝している。

 さて、今日お勧めする本は、自分が生きていくために人の命について向き合う小説です。

 主人公は永島杏平。杏平は高校の同級生の悪意に耐えられなくなり、一度ならず二度も殺意を抱きます。しかし、あと一歩のところで止まった杏平は自分の心を病み、高校を辞めてしまいます。その後、ようやく回復してきた杏平は、父親の後輩古田が経営する会社で働くことで、少しずつ回復していきます。

 古田の経営する会社は、孤独死などの現場を遺族や管理人の代わりに整理する会社です。凄惨な現場を相手にする過酷な仕事ですが、その現場で黙々と働く先輩達の姿に杏平は感動します。先輩達は、故人の代理として、天国へのお引っ越しをするために、敬意を払い真心を込めて仕事をしていたのです。

 その様な良好な人間関係が、凄惨な仕事内容でありながら、杏平の過去の傷を癒してくれるのです。中でも佐相さんというベテランの先輩の一言一言が哲学的であり、かつ、優しさと寛容さに溢れており非常に良いです。そして、杏平のお父さんも杏平に対して、精一杯力になろうとしている姿が、とても胸を打ちます。

 本書は全編を通して、人の命がどのように人に響くのかを暖かく伝える小説だと思います。是非ご一読ください。

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