息子が家を巣立ってから、半月程も経ち、私も家族もようやく落ち着いてきました。もっとも、落ち着かなかった原因である息子といえば、毎日のように新しい生活についての呑気なメッセージを家族に送ってきています。心配していた家族にとっては、それを見てホッとしたような、バカを見たような気持ちになっています。
何度かビデオ通話をしたことも良かったですね。今の時代は、家族会議もリモートで顔を見ながらできるのですから本当に便利です。息子いわく、自分の部屋からリビングが数百キロ離れただけの話だと。
私は、今回の件で、大げさに表現するようですが、自分が精神的に壊れてしまうような、不安な気持ちを持ちました。それは、息子が去っていく事で、取り返しのつかない時間の流れを強烈に思い知らされたからです。これまで、18回も当たり前のように繰り返してきた誕生日のお祝いは、もうできません。それどころか、それ以外にも家族での団らん自体が、ハードルの高いイベントになってしまいました。つくづく、これまでの当たり前のような一日の大切さを思い知らされました。
自分が、親元を離れた時にも、寂しい気持ちや、家族の形が変わるというショックは、確かにありましたが、自分の目の前に広がる新しい世界に無我夢中で、残された家族がこれほど寂しいとは思いませんでした。
今回の息子の受験では、私を含め家族も最大限のサポート体制を取りました。毎日の図書館への送り迎えはもちろん、食事や風呂などのスケジュールも息子のスケジュールに合わせ、彼のベストコンディションをキープすることに皆、真剣に付き合っていました。私は、主に土曜の夜9時、図書館から帰り遅い夕食を取る息子に付き合い、話を聞いていました。もっとも、自分の性格から、話を聞くよりも聞かせる方が多かったと思います。そして、あんなに不安を抱えて迎えた今年の4月に、息子は努力を成果として得ることができ、無事、大学生となって我が家を巣立っていきました。
あの辛かった受験期を含め、息子との日々は過ぎ去り、今は空っぽの部屋が残るばかりです。これからも、息子との楽しい思い出は、別の形で増えていくでしょう。十分承知しているつもりでした。しかし、振り返る材料ばかりが多すぎて、「時間」というものが持つ、すさまじい力を思い知らされました。それほど、圧倒的な喪失感だったのです。
最初の一週間は辛くて、藁にもすがる思いで、手に取ったのが、「卒母のススメ」という本でした。これは、子離れ親離れを卒母と称し、その体験に関する一般読者からの投稿101篇からできています。本当にそれぞれの多様な人生が描かれた一冊だと思います。例えば、子育てに疲れ卒母する日を夢見る人。子供の巣立ちで卒母し、抜け殻のようになる人。卒母に拘らず、淡々と親子関係を続ける人。などなど、さまざまな親子関係を知る事で、自分たち親子のあり方を見つめ直す事ができます。そんな本書は、子供の巣立ちに涙し、精神的に参っていた私にとって、良い薬となりました。