2021年1月31日日曜日

三崎 亜記 となり町戦争 (集英社文庫)


 『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編268日目

 今日の新潟日報の追想メモリアル欄に半藤一利さんが長岡に疎開していた事など、長岡に縁があることが載っていました。半藤さんは近現代史についての著作が多く、以前から興味があったため、1月12日の訃報を聞いてから図書館に本を予約し、昨日本を借りて来たばかりだったので、驚きました。今日までの月替わりセールにも半藤さんの昭和史が安売りされていたので、勢いで購入することにします。皆さんにお勧めできるように、頑張って読んでいきたいとおもいます。

 さて、今日お勧めする本は、市町村が事業として、となり町との戦争を行うという、とんでもない設定の小説です。

 主人公は、舞坂町からとなり町を通り会社に通っていたことから、舞坂町のとなり町戦争係から戦時特別偵察業務従事者への従事を依頼される北原修路。彼は積極的に戦争に加担したくはないと考えているが、突然始まった戦争が自分の見えないところで行われており、戦死者まで出ていることに衝撃を覚え、偵察という形で戦争を観察してみたいと感じ、戦時特別偵察業務従事者の辞令を受け偵察を始めます。

 重要人物として、舞坂町のとなり町戦争係主事の香西さんです。彼女は少ないとなり町戦争係の職員として予算の管理や戦争コンサルタントとの契約など事業として行われている戦争の事務処理で激務の中、冷静かつ事務的に北原にとなり町との戦争を教えて行きます。

 となり町との戦争が激化していき、となり町戦争係もとなり町戦争推進室と組織の変更が行われます。北原もとなり町戦争推進室分室勤務へと偵察業務の変更を命じられ、戦争推進室分室と名付けられた、となり町の役場近くのアパートへの潜入偵察が始まります。それも、香西さんと偽装結婚しての業務であり、そこから二人の奇妙な同棲生活も始まっていきます。そして、戦争は進み北原も肌で戦闘を感じる危機が起こります。

 正直に言って、このとんでもない設定が気になり、物語の所々でかなりの違和感を感じます。そんなこともあり、私は本書の物語に浸ることが出来なかったのですが、本書から受けたショックが半端ではなかったので、ご紹介するものです。

 平和な生活と並行して行われる戦争、事業として行われる戦争、市民が自然体で受け入れている戦争。どの切り口も、そんなバカなと感じます。この違和感が逆説的に戦争が起こるとどうなるのか考えさせられます。ぜひご一読ください。




2021年1月30日土曜日

上杉 隆 ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編267日目

 今日の新潟日報によると県の20年度ふるさと納税が3億円に迫り過去最高額を更新したそうです。新潟県の財政難は危機的状況で、職員の給料も削減されているほどです。ふるさと納税三種の神器と言われる、米、肉、カニは、新潟県の得意な生産品ですし、もっともっと伸ばしていって欲しいものです。個人的には、楽天市場を利用した、楽天ふるさと納税の活用が良いのではないかと思います。都道府県としては、山形県、鳥取県、高知県、宮崎県など、少数ですが他県も楽天ふるさと納税に出店しているようですし、新潟県もぜひ出店して欲しいです。

 さて、今日お勧めする本は、ニューヨークタイムスなど海外と日本のジャーナリストを比較し、日本のジャーナリズムがどれだけガラパゴスな状態かを明らかにする本です。

 本書の主旨は、記者クラブで各社横並び、取材対象にベッタリ癒着している日本のマスコミはジャーナリズムではない、って事だと思います。

 ニューヨークタイムスの記者の後、フリーランスとなった著者は、日本よりも外国の目線で、記者クラブについて辛辣な批評を書き連ねています。それらからは、日本のジャーナリズムは、ジャーナリズムとはいえない代物のようです。

 そもそも、日本ではジャーナリズムと共同通信などの通信社との区別がついていない事。海外では、新聞記者と通信記者の役割がハッキリ分かれているそうです。また、匿名の記事が当たり前、メモを見せ合いライバル社と情報を共有している、情報元のクレジットを記さないなど、日本のジャーナリズムの特異性というより、ハッキリ劣っている点をいくつも挙げている。

 中でも、記者クラブについては多くの紙面を割いて批判している。記者クラブは、そこに属していないと記者会見などに参加できず、取材対象にアクセスすることもできない。記者クラブには、雑誌記者やフリーランスの記者は入ることが出来ない。出入り禁止になる事を恐れて記者クラブ内での横並びを保とうとするとのこと。確かにこれではまともな報道は出来ないと思いました。

 元々、かなりセンセーショナルな言動が信条の著者なので、話半分に聞いた方が良いのかもしれませんが、今日本のマスコミが海外のマスコミからどう見られているか、いろいろ参考になる本だと思います。ぜひご一読ください。


2021年1月29日金曜日

吉野 源三郎 君たちはどう生きるか (岩波文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編266日目

 新聞によると、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた関連法案の修正で、入院を拒否する人への刑事罰の導入を削除する事になったそうです。罰金などの行政罰は残るそうですから、厳しい法律になることはかわりませんが、まずは良いことだと思います。どこかの知事が罰則がないからダメだ!と声を上げたらハイハイと言って刑事罰をつけるなんてことは、まさに衆愚政治そのものですから、そんな言葉に振り回されず、しっかり自分の考えを持つ事が大事なのだと思います。

 さて、今日お勧めする本は、戦前に出版され最近リバイバルで大ブームになった倫理をテーマとした児童文学です。

 主要な登場人物はコペルくんと、そのあだ名をつけた叔父さんです。コペルくんのあだ名の由来は、コペルくんが銀座のデパートの屋上から下界を眺め、人間は分子のようなものではないかと思いついたことを讃え、天動説が当たり前の時代に地動説を唱えたコペルニクスにあやかりつけたものです。物語は、コペルくんが日常で気付いた事や考えを叔父さんとの交換日記のようにして、倫理的に深めていくものです。

 ハッキリ言って、コペルくんはお金持ちのおぼっちゃまですから、何か上から目線で嫌いという読者もいるそうです。実際、先の人間は分子ではないかと言う思いつきも、銀座のデパートの屋上から下の人を見下ろしての言葉ですから、好き嫌いの分かれるところでしょう。しかし、学校でいじめられている浦川君との、関わり方や友情からは、コペルくんは素直な良い子としか思えません。

 浦川くんの家は豆腐屋を営んでいます。借金の返済に駆けずり回っているお父さんの代わりに、幼い兄弟の面倒を見ながらお店を開かなくてはいけなくなり、学校に行く事ができなくなります。コペルくんは、そんな浦川くんの生活を見て、尊敬の念をもちいたく感動して、勉強を教えるなど浦川くんの力になろうとします。これを聞いた叔父さんは、コペルくんが自分を浦川君より一段高いところに置いているような、思い上がった風が少しもしない事に感心し、貧しい人たちの自尊心を傷つけることのないよう、慎みを忘れないように諭します。

 本書は日中戦争開戦の年に発表となった作品なので、現代の倫理とはかけ離れている点もあるように思いますが、それでも学ぶべき多くの気づきを得ることができる思います。ぜひご一読ください。


2021年1月28日木曜日

森 達也 A3 (集英社文庫)


  


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編265日目

 少し前の新聞になりますが、オウム真理教の後継3団体を対象とした、団体規制法に基づく観察処分の3年間の更新を認めると決定したそうです。地下鉄サリン事件が1995年、麻原の逮捕も同年、麻原を筆頭に13人への死刑判決 が確定したのが2011年、その死刑執行が2018年です。だいぶ時間が経ちましたが、警察はまだまだ油断できない存在と考えているようです。このままおとなしくしていて欲しいものです。

 さて、今日お勧めする本は、麻原彰晃を含む関係者への取材から、マスコミでは報じられることのない、異例づくしのオウム裁判の異様さを伝えるルポルタージュです。

 本書の主旨は、確かにオウムは犯罪集団であるが、今回の裁判を始め、世論に影響を受けて、差別や人権を無視した異例な事が起こっているよ、って事だと思います。

 まず著者は麻原彰晃の裁判を傍聴して、精神的な疾患がるようである麻原彰晃の裁判を刑事訴訟法の規定に基づき公判手続きを一旦停止し精神医療を受けさせ、治療した後に裁判を再開するべきと言っています。確かに、多くの紙面を割いている、麻原彰晃の異常な言動に関する関係者の証言などを読めば、この裁判の異様さが伝わって来ます。

 オウム事件は、起こした犯罪の数も、犠牲になった人の数も、容疑者の数も桁違いの事件ですから、通常の手続きを踏まずに進められた異例づくめの裁判でした。そして、世間の人達がオウムを成敗したいと言う正義の思いも強く、少しでもオウムの肩を持とうものなら袋叩きに合うような状況でした。そのため、麻原彰晃の子供達も住民票の移動を拒否されたり、大学入学を取り消されたりと、多くの差別を受けているそうです。

 オウムに対する冷静さを取り戻した今こそ、あの事件を振り返る良い機会だと思います。そして、コロナ禍で、同じようにマスコミに煽られてしまう世の中に気付く、きっかけにもなるかもしれません。ぜひご一読ください。

2021年1月27日水曜日

佐藤 優 調べる技術 書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意 (SB新書) (日本語) 新書 – 2019/4/6 (著

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編264日目

 日経新聞によると、学校教育に大きな変化がありそうです。中央教育審議会の答申です。そもそも、4月から全ての小中学校で学習用端末を利用した授業が始まるとの事ですし、そのための、教員の指導力を向上するための制度改正などの答申に、算数や英語などの教科担任制を教員養成の体制見直しを進める事が含まれているそうです。小学校で教科担任制というのにも抵抗がありますが、それより、ICT(情報通信技術)を活用した学校教育と言うのも、先行き不透明で不安を感じます。子供達の教育にプラスになる改革となってほしいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、現代の知の巨人とも言える著者による知的生産性を高めるための指南書です。

 本書の主旨は、情報過多な時代では、インプットする情報をきちんと選ぶよう気をつけましょうって事だと思います。

 著者は毎月平均2冊の本を執筆し、その他にも多数の連載を抱えています。ひと月に書く原稿は、1200ページに達し、そのために500冊の本に目を通すそうです。そんな著者が読者に問いかけるのは、スマホでSNSやネットニュースなど手軽にインプットした情報は、量は多いが本当に自分のためになっていますか?と言うことです。そして、知的生産の技法を磨き、コミュニケーション能力を高めることで、読者が人生そのものの充実度を高めていくと言うのが本書の目的だそうです。

 本書でなるほどと思ったことは、教養力アップの方法として、高校の教科書を学び直すこと。リアルタイムの情報は新聞で、過去の情報は本でインプットするのがはやいこと。ネットニュースではなく、NHK NEWS  Webを見ること。ジャパンナレッジなど、良質な情報に触れるためには有料のサービスも活用すること。スマホの独学アプリも役に立つこと。アウトプットは、手書きのノートの効率が良いこと。

 その他にも、知的生産性向上のためインフラ整備として、お金の使い方や、コミュニケーション、休息についても述べられています。

 かなり多岐にわたる内容ですが、一つ一つが短いので読みやすいです。ぜひご一読ください。

2021年1月26日火曜日

金子 哲雄 僕の死に方 エンディングダイアリー500日 (小学館文庫)

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編263日目


 日経新聞の電子版によりますと、新型コロナウイルスによる世界での死者数が高水準で推移しているそうです。1日あたりの死者数は、24日に1万4082人と過去最多となったとの事。その内訳では米国が圧倒的に多く、累計死者数でも世界で最も多く、41万人を超えているそうです。日本の状況と同じく、年末年始の移動や集まり、感染力が高い変異種の影響で感染者数が増加し、1月後半に入って亡くなる人が増えているそうなので、日本が特別失策により感染者数が増えているなんてことはありません。しかし、これだけコロナが蔓延して、死者数も多いのに順調な米国経済ってどうなっているのでしょうかね?まあ、これだけ死んでいるんですから医療崩壊はしているのでしょう。


 さて、今日お勧めする本は、平成24年10月に急逝した流通ジャーナリスト金子哲雄さんのエンディングダイアリーです。


 本書最大の衝撃は、肺カルチノイドという病気に罹り、余命宣告を受けた著者が、周囲にそれを隠して最後まで仕事を続けると決めて、それをやり遂げた事です。


 本書の前半は、著者のこれまでの振り返り。弟1章は学生時代から流通ジャーナリストとして名を成すまで、第2章は流通ジャーナリストとして活躍する日々です。どちらも学ぶところが多く、著者がどれだけ人の役に立とうとして頑張っていたか、それが実際、多くの人に役立っていたであろう事が伝わって来ます。


 後半は、病気を覚知してからの日々。弟3章では周囲に病気を隠しながら、治療、仕事、家庭生活のバランスを取るよう奮闘する姿が描かれています。そして第4章では、重くなる病状のため仕事を女性週刊誌の連載一本に絞り、葬儀の手配や相続のための遺言作成など、自分の死後への準備を進めていく。


 そして、直前まで仕事を続けながら、奇跡など微塵も起こらず著者は死を迎えます。


 兎に角、自分の死んだ後のお墓や葬儀を始めとする様々な準備を自ら整えて旅立っていった姿が胸を打ちます。そして、病気のことを伏せていた周囲に申し訳ないと思う人の良さや、自分の死の間際まで奥さんの手を握り、奥さんの事を守ると言い続けた愛情には涙が止まりません。生と死を目の前に突きつけられる感動の実話です。ぜひご一読ください。


2021年1月25日月曜日

辻 寛之 インソムニア

 


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編262日目

 新潟日報の一面によると、陸上自衛隊と米海兵隊が、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブに、陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」を常駐させることで二〇一五年、極秘に合意していたことが、日米両政府関係者の証言で分かったとの事です。ただでさえ、地元の合意が取れず苦労している辺野古移設に対して逆風になりそうなニュースです。背景には尖閣諸島への圧力を強める中国への牽制という目的があるようです。私は防衛のために必要であれば必要であると所用の手続きを取るべきだと思いますし、もし、自衛隊の体質が極力水面下で物事を進めようとする改善していくべきだと思います。

 さて、今日お勧めする本は、自衛隊とPKO派遣について、新たな視点を与えてくれる小説です。

 物語のあらすじは、防衛省でメンタルヘルス官として勤務 している神谷が、PKOの南ナイルランド派遣部隊で派遣中に殉職した三崎二曹の同僚や同じ派遣隊員たちのメンタルケアを担当する中で、南ナイルランドで起こった事件について、幾重にも重ねられた虚構の中から真相に迫っていくというものです。

 自衛隊とPKOというデリケートなテーマに取り組む社会派小説でありながら、南ナイルランドの現場で何があったのかという謎解きのエンターテイメント性が読者をどんどん物語に引き込んでいきます。

 各章ごとに変わる語り手のキャラクター作りも丁寧で、物語を立体的に浮かび上がらせています。

 私の好きなシーンは、神谷の上司である上村が、隊員よりも組織を守る事ため事実を隠蔽しようとする防衛省幹部を諭すシーンです。セリフの一部を書抜ます。『彼らは自衛官です。国民のために命をかけて奉仕しているかけがえのない存在なのです』 。このシーンから、どのような立場だとしても現場の人間に敬意を払うことが大事である事、そしてその言葉がどれほど力強いか思い知らされました。

テーマがテーマだけに、少し重めのお話ですが、小説としての面白さがちゃんと楽しめる作品だと思います。ぜひご一読ください。