2021年5月7日金曜日

伊坂 幸太郎 砂漠 (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト2日

 仕事の中で住民からの苦情の電話も多く受けます。今日も川に木が落ちているから除去してほしいと言う要望がありました。いつもなら、現場を確認して、事務所に戻り、業者さんに処理依頼の電話をかけて完結です。しかし、2m下の川中に落ちている木は、ギリギリ自分で引き上げられるか微妙な大きさです。一人で撤去することに決め、引き上げる作業にかかりました。見た目より水や泥がついて重く、本当にギリギリでしたが、何とか引き上げる事が出来ました。手や作業着は泥だらけでしたが、久しぶりに現場での仕事ができて良かったです。

 さて、今日お勧めする本は、大学生のなんて事のない日常をモチーフにしていながら、熱い仕上がりとなっている小説です。

 本書で今日取り上げたいのは、行動力こそが絶対であると言う、メインキャラクターの西嶋です。

 本作を含め、著者は少し極端な断定口調のセリフが魅力的な作品を得意としています。その中でも、本作の西嶋は特に尖っていて、周りにひかれながらも怯む事なく、堂々と正論を叫んでいるのです。この清々しさ、熱さは私が読んだ他の小説の中には存在しません。

 有名なセリフでは、「あのね、俺たちがその気になればね」「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」とか、「たとえばね、あなたたちがタイムスリップをしたとしますよね」「百年も昔に行くわけですよ」「で、そこであった町民が病気で倒れるんですよ」「その時にね、あなた達のポケットに抗生物質が入ってるんですよ。でもって、それを町民にあげようかと思うんですがね、はたと気づいちゃうんですよ。この時代には抗生物質はまだ存在しないはずだから、ここで、抗生物質を使うことは、歴史を変えることになるのではないか、なんてね、思うわけですよ」「関係ないんですよ!歴史とか世界とかね。今、目の前にある危機、それですよ。抗生物質をあげちゃえばいいんですよ、ばんばん。今、目の前で泣いている人を救えない人間がね、明日世界を救えるわけがないんですよ」などです。

 ちなみに、西嶋のモデルは、サンボマスターのギターボーカルの山口さんらしいです。こんな西嶋に会うためにも、是非ご一読ください。

2021年5月6日木曜日

今野 敏 果断 隠蔽捜査2 (新潮文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト3日

 今日のように天気の良い日は、ベランダで寝っ転がりたい。ヨガマットを敷くのも、なんか無粋ですし、一人がけソファーで妥協するのも寝っ転がるほどリラックスできません。考えた結果、スタンド付きのハンモックがベストであると気が付きました。早速、購入を検討中です。お勧めなどありましたら、どなたか教えて下さい。

 さて、今日お勧めする本は、原理原則が最強ということを思い知る異色の警察小説です。

 本書で今回取り上げたいのは、いわゆる世間はどんな公務員を求めているのかと言う事です。

 本書の主人公である竜崎は、優秀なキャリア官僚ですが、息子の起こした不祥事により、警視庁大森署の警察署長に左遷されます。もともと竜崎は、原理原則、正論に対して潔癖すぎるほど忠実な性格です。そのため、空気をよんで正論を曲げるなどできず、警察官僚の中でも変人として扱われています。

 本作では、大森署の署長として赴任しても、そこの慣習などには見向きもせず、原理原則に従って判断するため、副署長や各課長はこれまでのやり方の通じず、戸惑います。例えば、区長や区議会議員の出席する公園の落成式や、地域の防犯対策懇談会に警察署を代表して出席する事などは、署長の行う仕事として重要視していません。その他にも警察組織が持つ様々な慣習も、捜査や警察の本来業務に必要がないとなれば、全て徹底的に無視します。

 こんな竜崎の行動を見て多くの読者は、良くやってくれたと、喝采する人が多いのではないかと思います。竜崎の原理原則を貫く言動で、旧来のお役所仕事の弊害が喝破される場面を読むと多くの読者の溜飲が下がるのではないかと思います。つまり、原理原則を貫いたホンモノのお役所仕事こそが、世間から求められているのではないかと感じるのです。

 ミステリーならではの謎解きが面白いだけはありません。新しい職場でマイペースに仕事をこなす竜崎がかっこいいと思いました。どこにいてもベストを尽くす。結果は後からついてくると言う当たり前の事に改めて気付きました。他にもいろいろ楽しめる作品でもあるので、是非ご一読ください。

 

2021年5月5日水曜日

荻原 浩 なかよし小鳩組 (集英社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト4日

 NHK総合で「赤ちゃん本部長」なるアニメを目にしました。47歳の武田本部長がある日突然赤ちゃんの姿になってしまったと言う物語。赤ちゃんだけど声も思考力も47歳のまま、体の機能が赤ちゃん並みになってしまったもの。赤ちゃんの声がまさしくおじさんのものであるギャップが見ていて楽しい。一本5分と言うテンポの良さも時間を取られずに良い。NHKプラスで見逃し配信をやっていたので、早速全部観ました。テーマは助け合いの世の中についてだと感じました。続きが楽しみです。

 さて、今日お勧めする本は、倒産寸前の零細代理店のダメサラリーマン達を描いたユーモア小説です。

 本書について、今回取り上げたいのは、アル中でバツイチのコピーライターである主人公杉山と、その娘早苗の別れの物語が切なくて泣けるところです。

 本書のストーリーは、零細広告代理店であるユニバーサル広告社が、ヤクザである小鳩組のイメージアップ戦略という仕事をする中で、別居中の娘である早苗が杉山の部屋に転がり込むと言うお話です。

 この作品では、早苗のキャラクターが明るくて楽しくて魅力的です。そして、お昼の奥さま劇場『愛のシュラ』のセリフを真似て口にするのですが、ハッとさせられる鋭いセリフが良いです。例えば、杉山達が別れた理由を聞いて、「幸せは比べるものじゃないわ」「不幸は比べることから始まるのよ」と、『愛のシュラ』のセリフを口にして、杉山を驚かせます。

 早苗は新しい父親と上手くいっておらず、何かと杉山を頼ってくるのですが、新しい父親から早苗と距離を置いてほしいと杉山は頼まれます。そして杉山は早苗と二度と会わないことを決心するのです。

 メインストーリーのヤクザとのやりとりなども面白いのですが、新しい家庭に生きる早苗との物語が切なくて、読み応えがあると思います。是非ご一読ください。
 

2021年5月4日火曜日

池井戸 潤 下町ロケット (小学館文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト5日

 この連休中で一番のお天気であった今日、娘が行きたがっていたシャボン玉の企画に参加するため、自然科学館に行ってきました。シャボン玉の企画も良かったですし、自然科学館の展示物もとても楽しんでいたようでした。その中でも、プラネタリウムを観たのは大正解で、娘にとって初めての体験になりましたが、非常に喜んでいました。私は昔からプラネタリウムが好きなのですが、作り物とはいえ、星空の美しさにはいつも感動します。

 さて、今日お勧めする本は、中小企業の町工場が様々な困難を乗り越えて、ロケット部品の開発に成功すると言う、実に痛快な小説です。

 本書で、主人公佃社長が困難を乗り越えるカギとなるのは、品質にこだわり抜いたプライドです。

 主人公の佃が経営する佃製作所は、かつてロケットエンジンの開発研究者であった佃が家業を継いでから、エンジンに関する技術とノウハウの評判の高い会社となりましたが、売り上げが100億円に満たない中小企業です。その佃製作所には、大口取引の終了やライバル会社からの訴訟、銀行からの融資見送りなど、様々な困難が次々に立ちはだかります。

 これらの困難に佃はお金がかかる研究開発に手を抜くことなく、そこから得られる技術力とノウハウを武器に、困難を乗り切っていきます。この品質と技術力に対するプライドが、多くの人を惹きつけ、味方となり困難の解消に結びついていくのです。

 真面目に頑張る人や会社が報われるという明快さが、読む人を勇気づけてくれる物語です。是非ご一読ください。

 

2021年5月3日月曜日

新田 次郎 八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト6日

 先日、シロアリ対策の営業の方が来て、古い家の方を見ていったのですが、今のところシロアリはついていないようです。とはいえ、昔シロアリにやられたこともあり、シロアリ予防を勧められました。坪一万円だそうです。それで年一回の定期点検と万が一シロアリがついた時の保険が付いているのは、お得なのかもしれません。しかし、5年に一度坪一万円の出費が固定費になるのはちょっと痛いので、我が家では見送りということになりました。今回はシロアリの出たお宅の動画を見せていただいて、シロアリについて勉強できたのは収穫でした。

 さて、今日お勧めする本は、明治時代に起こった世界最大の山岳遭難事件を取り上げた記録小説です。

 この作品は遭難しほぼ全滅した5聯隊の悲劇が印象的な作品ですが、同時に行軍し成功した31聯隊の記録として読んでも非常に面白い作品だと思います。

 本書では、八甲田山の悲劇はなぜ起こったのか?と言う謎について、指揮系統の混乱や、準備の不備、軍人精神の過信等の理由が記されていますが、私が本書を読んで感じるのは結局、運が悪かったという事です。

 5聯隊をほぼ全滅という状況に追い込んだ悪天候の中を31聯隊は無事帰還することができました。しかし、成功者である31聯隊でさえ、いつ全滅してもおかしくありませんでした。この31聯隊が困難を乗り越えていく様子は非常にハラハラさせるものでしたし、運良く助かったと言う印象もありました。そして、31聯隊でも、地元住民による案内人を叱りつけて従わせようとする、軍人至上主義のような態度もあり、軍人としての性格にかわりはありませんでした。

 日露戦争を想定して行われたと言われるこの行軍の失敗により、陸軍の防寒装備の見直しが行われたとも書かれており、5聯隊の遭難は結果として日露戦争勝利に寄与したとのことです。

 作中、立川中将の言「いや、第五聯隊は勝ったのだ。百九十九人という尊い犠牲を出してこの戦いに勝ったのだ〜中略〜五聯隊の遭難が日本陸軍の敗北を未然に防いだことになったのだ、〜後略」  

 困難を乗り越える知恵や勇気を学べる作品だと思います。是非ご一読ください。

2021年5月2日日曜日

大崎 善生 聖の青春 (講談社文庫)


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト7日

 残り一週間は一年前に『7日間ブックカバーチャレンジ』でブックカバーだけ紹介していた本をあらためて取り上げていきたいと思います。

 日曜日は囲碁のNHK杯をよく観るのですが、今年の4月から画面の上にAIによる優勢判定が表示されるようになりました。多くの対局では、劣勢にある側が、勝負手という一か八かのギャンブルに出て、そこから、優勢判定が一手ごとに行ったり来たりします。先週の対局では、圧倒的に優勢な状況の対局者が、KOを狙いに行ったところ仕留め損ね、負けてしまったのです。この時も優勢判定が、95%から、たったの一手で逆に5%まで激減して、一手一手のシビアさが伝わってきて面白かったです。日曜日の囲碁の時間はテレビ前から離れられません。

 さて、今日お勧めする本は、29歳で夭逝した天才将棋棋士村山聖の生涯を描いた感動のノンフィクションです。

 とにかく名作なので色々な気付きを得られる作品ですが、今回は村山聖が追いかけた夢について、書いていきたいと思います。

 本書の主人公である村山聖は小学校に入学する前から腎ネフローゼという難病にかかり、入院生活を繰り返し通常の小学校にも上がれず、重病を抱えた子供達が療養する施設で過ごします。その頃から覚えた将棋にのめり込み、本で勉強し将棋の腕を上げていきます。

 そんな子供の頃から、病気と闘い死と隣り合う生活を支えたのは、名人になりたいという、強い想いでした。その夢を抱いた時から、村山聖は名人になるために努力を重ね、唯一そのことだけに集中して生きていきます。ネフローゼを悪化させないためには、安静にするしかないのですが、将棋のためにじっと安静にして病気を飼い慣らそうとしていたのです。

 圧巻だったのは、プロとなり名人へあと一歩というところまで来ていた村山聖が、癌を発症しその闘病生活の中でも名人になる夢を捨てていなかったことです。うまく頭が回らず将棋に支障が出ると言って、鎮痛剤や麻酔などの投与を頑なに拒み、痛みに歯を食いしばって耐えていたそうです。

 癌に病みながら名人になるという夢は明らかに不可能に見えますが、村山聖にとっては自分を生かすための大事な信念だったように思いました。そして夢は叶えるのが大事なのではなく、今この瞬間を生きるために必要なのだということに気付くことができました。

 村山聖という壮絶な人生に触れることは、かなり精神的にキツいのですが、それだけ強いエネルギーをもらうことができると思います。是非ご一読ください。

2021年5月1日土曜日

トーマス・D. シーリー ミツバチの会議: なぜ常に最良の意思決定ができるのか


『7日間ブックカバーチャレンジ』番外編ラスト8日

 子供達を含めてのBBQはとても楽しい家族行事だと思います。家族で火を囲み、お腹いっぱいお肉を食べるという、わかりやすい楽しみ方は、子供たちにとっても非常に楽しい思い出になるようです。コロナで色々制限がかかる中、楽しい休みにしたいので、今年の連休中に、なんとかもう一度BBQをやってみたいと思います。

 さて、今日お勧めする本は、ミツバチが教えてくれる民主主義の最適な方法について考える本です。

 本書の魅力は、ミツバチの研究から、民主的に最良の意思決定を得るヒントを導き出しているところにあります。本書で使われている言葉は平易で、図表も多く、非常に読みやすく分かり易い本だと思います。

 本書で取り扱っているのは、ミツバチの巣の分蜂という、コロニーの成長過程で起こるイベントです。ミツバチはその分蜂という過程で、元の巣から三分の二の蜂が女王蜂を連れてお引越しをします。

 その際、どこへ引っ越すのか決める為、一部のベテランの蜂により、広範囲な探索と候補地の選定が行われ、巣全体の合意形成がなされて、一斉にその候補地に飛んで行くのだそうです。

 そのプロセスを40年に渡り研究してきた著者が丁寧に解き明かしていくのです。それは奇しくも、人の脳の意思決定メカニズムに類似するという著者の指摘もあります。終章ではミツバチの智恵を活かした理想的な集団意思決定手法を提案しており、私たちの現代社会において参考となるメカニズムが提示されています。

 自然科学と社会科学を融合させるヒントがたくさん詰まった本だと思います。是非ご一読ください。